かえるコールが大切なわけ

■あの頃のテレビCM
1980年代に「カエルコール」というのが話題になった。新生NTTのテレビコマーシャルだ。夕方、駅の公衆電話で家に電話するサラリーマンのお父さんの傍らには巨大なカエル。「今から、帰る」とそれだけの電話なのだがそれが話題になり流行語になったように記憶している。それまでの電電公社が民営化されて現在のNTTになった頃だと思う。民営化にあたって通話料を稼ぐためのCMだったのかもしれないが本当のところはわからない。あの頃の日本では「お父さんは会社で仕事、お母さんは家で家事」というのが普通だった。お母さんは勝手し放題のお父さんにも黙って我慢していることが多かった。そんな時代だった。だからお父さんだって家で頑張ってるお母さんに「今から帰るよ」くらいの優しさを見せましょう、ということなのだと思う。

なぜ今そんな話を持ち出したのかといえば、かえるコールには全体効率化の大きなヒントがあるからだ。
あの時代、日本のサラリーマンといえば「お父さん」のことだった。朝、会社に行ったお父さんは夕方まで会社で仕事をする。5時か6時になると仕事を終えて満員電車で家に帰る。でもたまには会社の上司や同僚と”ちょっと一杯”飲ることもあった。そんなお父さんを家で待っていたのは奥さんと子供たちである。いつもなら7時頃には帰ってくるお父さんが7時半を過ぎても帰ってこない。「いやだ、またどこかで飲んでるのかしら?」などと言いながら「お父さん帰ってこないから先に食べちゃいましょ」と言って子供達を食卓につかせる。
ところがお父さんは夜9時を過ぎてもまだ帰ってこない。「遅いわねぇ」などと言っているところに

「ただいまぁ~」
「おなたお食事は?」
「あぁ部長と飲んできたからいらない」
「・・・」
「風呂!」
(小さな声で)「んーっもう!、いつだってそうなんだからっ!」

「最初からいらないとわかってるなら連絡くらいしてよね!」ということである。そりゃもっともだ。いつも通りに帰ってくると思って献立を考え、昼間から買い物を済ませ、夕方から炊事や子供の世話、お風呂の用意にと時間を工面しながらせっかく用意した晩御飯を「いらない」の一言で片付けられたら愚痴の一つでも言いたくなるってものだ。お父さんが時間通りに帰ってこないことが分かっていれば、晩御飯がいらないということが分かっていればムダな時間も食材も手間もいらなかったのだ。

■効率化とはムダを省くこと
お父さんが会社で働いているようにお母さんにも家の仕事のダンドリがある。お父さんがいつもどおりに帰ってくれば食事の支度だってお風呂だって子供の世話だって晩御飯の洗い物だって、細切れの時間を恐ろしいほど精密に切り貼りして算段できるのだ。それがお父さんの勝手でダンドリを変えられてしまうとすべてが狂ってくる。帰ってきたお父さんが「ご飯を食べる」と言えば帰ってくるまで食器を洗うのを待って一気に済ませてしまいたいと思うだろう。なのに帰ってきたお父さんは「いらない」と言う。残った晩御飯はラップして冷蔵庫にしまい明日のお母さんのお昼ごはんになるだろう。とっくに終わっていたはずの洗い物もこれからだ。お父さんと遊びたかった子供は機嫌が悪い。台所が片付くまでは子供たちの明日のお弁当の準備もできない。
「まったくもうっ!」である。

■後工程にダンドリさせること
こういう人は職場にも少なからずいる。自分の仕事のことしか考えていない人だ。
仕事は自分だけで完結することはない。自分の前にやった人の仕事をインプットして自分の仕事を始める。そして自分の仕事の結果が後工程の人のインプットになる。誰だってイヌやネコのようにダラっと待っているわけではない。前工程から仕事を受け取ったら無駄なく自分の仕事が始められるように準備してタイミングをはかっている。自分の仕事がバッティングしないように調整しながらインプットされるのを待っている。まだインプットがないと思って他の仕事に取り掛かっている時に急に「はい、終わったからやって」と言われても困るだろう。だから後工程に上手くダンドリしてもらうには自分の仕事のダンドリも伝えておかなければならない。自分の仕事が終わればあとは野となれ、というような人は誰からも嫌われる。誰だってムダな時間はなくしたいのだ。前工程の人の心遣いと後工程への思いやりが全体の効率化につながり、後工程をやる人の心の平安にもつながる。

■日本の一番の問題児
準備をしないといえばもっとも代表的なのが日本政府だ。何十年も前からまったくダンドリが組めていない。45年前には子供の出生率がピークになったがその後は一本調子で減少している。現在に至るまで「少子高齢化」と念仏のようにつぶやいていたが具体的な対策は何もしなかった。子供は0歳で生まれる。生まれた子供がいきなり20歳だったなどということはない。今年生まれた0歳は20年後には20歳になっているが、減ることこそあれ絶対に増えることはない。今の状況など何十年も前から分かっていたのだ。ところが今になって育児支援だの妊活対策だの働く女性に子育てしてもらうため、になどと言い始めた。そして仮に有効な手立てを打てたとしてもその効果が出てくるのは20年も30年も後のことだ。
少子高齢化になれば社会保険や年金制度が破綻することは火を見るより明らかである。政府は今になって急に「人生100年」「生涯現役」「1億総活躍」などといってお茶を濁そうとしているが、お茶が多少濁ったところで何も変わらないのだ。何もダンドれなかった国民は今、右往左往している。