バランスを崩す人

健康番組とグルメ番組はテレビ番組の華である。僕にとってはどうでもいいので”罪がない”と思っていた。どうにもこうにもヒマを持て余した時の旅番組と同レベルだ。ところがこういったテレビ番組を見てそれを鵜呑みにしている人が意外に多いということに気づいて少しびっくりしている。以前なら女性週刊誌の得意な話題だったのでみんな話半分に聞いているのだろうと思っていたがそうでもないらしい。

「骨粗鬆症対策にはカルシウムだ」「若返りにはビタミンCだ」「体が固くなったらお酢を飲め」、コラーゲンだ黒酢だすっぽんエキスだとコマーシャルではなんちゃら自然食品みたいな会社が狂ったようにコマーシャルを流している。価格もかなり高価だったりする。原料はカニを加工した後に捨てていた殻を使っているだけで加工に取り立てて特別な技術も必要ないにも関わらずである。もっとも高価な値付けをしていかないといかにも”大して効果はありません”という印象を与えかねないのでほとんどがバカみたいな定価である。まぁこのあたりはマーケティングの話になるので今回は割愛する。

ご存知のように人間の体は数兆ともいわれる細胞でできている。そのほとんどは生きている細胞なのでそれぞれに新陳代謝をしている。それが集まった組織もそれを構成する細胞が新陳代謝することで常に生まれ変わっている。生まれる細胞と死んでいく細胞がバランスすることで組織全体としては一見”変化していない”ように見えるわけだ。これは細胞の生き死にに限らず体中のあらゆるとことであらゆる変化をつかさどっている。「骨折したのはカルシウムが足りなかったから」「貧血になったのは鉄分を食べなかったから」なんていう単純な理屈ではない。骨はカルシウムだけで出来ているわけではないし血液は鉄だけで出来ているわけではない。フカヒレを食べたら翌日に肌がプルプルになったと言っている人をよく見かける。たしかにフカヒレにはコラーゲンが含まれているのだろう。でも食べたフカヒレは胃や腸で分子レベルまで分解されて吸収され血管の中に流れ始める。食べたコラーゲンが直接皮膚に行くわけではない。

しばらく前にビタミンサプリが流行った。ビタミンは体内では十分に作れない成分なので食べ物などから摂取する必要がある。同じ職場にいた男の同僚は”ダイエット”だといって極端に食べ物を減らしていた。「無理は体に悪いぞ」というと「サプリを飲んでいるから大丈夫」だと言う。しばらくしたら彼はうつ病だと言って職場に来なくなったのでその後のことはわからない。人間は数100万年前から似たようなものを食べて生きてきた。その時代時代に応じて食べるものが多少変わってきたとしてもだ。肉はタンパク質だけを与えてくれるものではない。野菜は食物繊維だけを与えてくれるものでもない。今のところ分かっている十数種類のビタミンだけで生きているわけでもない。極端なことをやれば必ずどこかのバランスが崩れる。

経済学を勉強するまで知らなかったが、先物取引で外貨建ての商品を買う際には為替変動によるリスクを減らすために、円が上がれば儲かる商品を買うときには円が上がると損をするモノも同時に買うのである。もちろん同額を買う必要はないのでリスクを許容できる範囲を考えて「何があってもこれ以上は損できない」線を見切ってバランスを取るのである。つまり円が下がって元の商品で損をしても同時に買った商品がその損をある程度カバーしてくれるわけである。もちろん為替差益で得をする金額は減るが損をした時も傷口を広げずに済む方法だ。
体内のバランスがこんなに単純でないことは誰でも想像がつく。だから人間は1種類の食べ物に依存することなく、多くの種類のものを食べてバランスを取ってきた。
病気などで体内のバランスが崩れてしまったときには一時的に一部の要素だけでもバランスを取るために薬を飲まなければならないこともあるだろう。しかし現在健康でいる人がわざわざバランスを崩して不健康になることはないのである。
ヒトの骨は常に破壊と生成を繰り返して4~5年で新しい組織に入れ替わるのだという。