「舟を編む」

かつて「本屋大賞」にも選ばれ映画化もされた小説なので読んだ人も多いかもしれない。ボクは以前に原作は読んでいたのだが先日初めて映画を見る機会があった。もっとも映画といってもAmazonビデオである。

松田龍平さんと宮﨑あおいさんが主演で、今まで観た小説の映画化作品の中では例外的に小説のイメージを崩されなかった作品だった。ストーリーは原作通りにシンプルで、出版社で辞書を作っている人たちの物語に料理人である主人公の下宿の大家さんの孫娘が絡んでほのぼのとした物語が繰り広げられる。

辞書を作るという経験はしたことがないのだがそれは辞書に載せるべき言葉を拾い上げていくことから始められる。そしてその言葉を的確に表す説明が必要だ。例えば、映画の中に出てくるのは「『右』という言葉を説明してください」と言われる。「右は左の反対」では「左は右の反対」ということになって循環参照してしまい説明にならない。

主人公は「右」は西を向いた時に北にあたる方向、と説明していたが他にもいろいろな説明の仕方があるだろう。ちなみに手元の広辞苑を見ると「南を向いたとき西にあたる方」とあった。「一」の字の書き終わりの方と説明している辞書もある。どうやら他の辞書の真似をするのを潔しとしないらしい。

ただ載せる言葉を選ぶ時には他の有名辞書に載っている言葉はもちろんだが、新しく使われるようになってきた言葉も載せなければならない。ここで例として出たくるのは「チョベリグ」だった。「チョー・ベリー・グッド」を略した当時のJK(女子高生)言葉だ。ちなみに手元の辞書に「ジェーケー(JK)」は載っていなかった。

当時まだ学生でお金のなかったボクたちは自分たちのことを指して「チョベリビ」と呼んでいた。チョー・ベリー・ビンボーの意だ。友人のタニグチが言い始めた言葉だ。

かつて印刷会社にいた頃には雑誌や写真集、カタログなどを作る工程はなんとなくわかっているつもりだったが辞書を作るというのは考えたこともなかった。しかも1冊の辞書を作るには10年以上の時間がかかるという話を聞いた時には気が遠くなるような気持ちだった。文字や内容の確認をする校正作業は5回以上にも及ぶという。普通の雑誌なら2回程度だから数千ページにも及ぶ辞書を5回も6回も見直して確認するのはまさに気が遠くなる作業である。

それでも作り上げた辞書に間違いがあったらどうなるか。それは誰も辞書信用しなくなるということでありまさに辞書の存亡に関わる一大事なのである。映画では宮崎あおいさんの可愛らしさが際立った作品だったが、それにもまして辞書というものを見る目が変わった作品でもある。

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