テレビのニュースを見ていたら、小学生のブラスバンド部員が新型コロナの慰問演奏にやってきたプロのオーケストラ団員の演奏を聴いていた。演奏会が終わったあとパートごとにレッスンを受けていたのだが、リポーターに「どうだった?」と尋ねられたら「(私の吹く音と)ぜんっっっぜんっっっ違う!!!」と答えていた。そう言えばボクにもかつてそんな経験がある。

高校生の頃、ボクがブラスバンドにいた時には講師の先生はいなかった。新設校で「野球部の応援のために」とPTAと学校によって作られたクラブには真新しい楽器は届けられたが吹き方を教えてくれる講師の先生は届かなかった。そしてしぶしぶ割り当てられた顧問の先生は管楽器が吹けなかった。

ボクたちは新品の楽器に”付いてきた”教則本を見ながら音を出す練習を始めた。ところがいつまで経っても満足に音が出ない。「なかなか音出ないねぇ〜」などと言いながら数週間も経つころ、楽器の音とはいえないような音でなんとか1オクターブの音階までは出せるようになったが到底音楽になるレベルではなかった。そうして2年が経ちボクらは卒業した。文化祭では体育館のステージで演奏もした。

そして何年か経った時、母校に横浜国大のオーケストラでトロンボーンを吹いていたというオオバ先生が赴任してきた。先生は理科の先生だったが、講師もいないブラスバンド部を可哀想に思ったのか進んで顧問になってくれた。やがて先生が高校時代にブラスバンドでお世話になったという講師の先生を紹介してくれたのだった。

その人はクサカベ先生という横浜市消防局の音楽隊に所属していた人だった。まだ20代だったが髪はかなりアレになっていた。しかし兎にも角にも母校のブラスバンドに初めてやってきた”プロの”音楽家だった。クサカベ先生はトランペットが専門だったが、いざとなればフルートもサックスも吹いた。

先生は楽団員を前に合奏の指揮もしたしそれぞれのパートに行って個別の指導もした。まさにボクらから見ればスーパーマンだった。そして指揮の途中で曲のニュアンスが伝わらないとフルートの譜面でもサックスの譜面でもホルンの譜面でもトランペットで模範演奏をして見せた。管楽器の譜面は楽器によって調が異なっているのだが、それを瞬時に転調して吹いていた。

その音色はボクらの吹く楽器の音とは似ても似つかない奥行きのある輝きのあるうっとりするような音色だった。ボクらは「本当のトランペットの音とはこういうものなんだと初めてわかった。まさに「ぜんっっっぜんっっっ違う!!!」のだ。

本物の音を知ったからといって自分でもその音が出せるかといえばまったくそんな事はない。ボクらの出す音は相変わらずだ。しかし本物を知った後輩の中には急に上達をし始めたメンバーが何人も出始めた。「アレが本物なんだ。アレを目指せばいいんだ!」という目標ができた途端に人の意識は変わる。そんな経験はなかなかできない。これがリアルの醍醐味だ。

ニュースに出ていた小学生たちも”ぜんっっっぜんっっっ違う!!!”経験をして大きく羽ばたいていくのだろうか。ボクはとても楽しみにしている。