目まぐるしく変化するビジネスシーン、いやビジネスに限らず教育の現場でも福祉の現場でも環境は常に変化している。ある意味で変化し続けることが生き残るために求められる時代には、何も変えられないことが最も大きなリスクにもなりうる。

しかし現状を変えようとした時には何らかのリスクを考えないわけにはいかない。特に中小・零細企業の経営者は最もリスクに敏感でなければならない。組織としての体力がないからちょっとしてキッカケで経営はすぐに不安定になる。

そんな中で世界中に新型コロナウイルスの感染流行が襲い掛かった。今までのビジネスのやり方が通用しなくなり、多くの企業が急迫した変化を求められた。そんな中でリスクを最小限に抑えるために役立つのが”教科書”だ。

変化しなければ生き残れないことはわかっていても、闇雲に変えればいいというわけではない。その蔭には変化するための筋の通った理論が必要になる。経験を踏まえた先人たちの成功や失敗もそうだが、古くから経済学者や有能な経営者たちが生み出してきた知恵は何よりも強力だ。そして何度も検証されたそれは、もはや使い古されたと思われる教科書の中にこそ残っている。

一般にビジネス書というと、「私はこれで大成功した」というような武勇伝ばかりがもてはやされるが、それは一握りのカリスマ的な才能を持った経営者だからできたことも多い。天才がチャンスを掴んだ時には大きな成功が転がり込むことも多いし、何よりもチャンスを見つけられる能力こそが天才の証だったりする。しかしボクを含めて、世の中の経営者も政治家もそのほとんどはいわゆる凡人である。

神の啓示を受けることもなく世界中の人からから賞賛されるような才能もない。だからこそ教科書に忠実従ってみることが有益なのだと思う。教科書の中にはそんな有能な先人たちの知恵が詰まっている。

「教科書は役に立たない」「それは所詮教科書の知識だよね」とバカにしたように言われることもある。教科書に書いてあることは実際の現場では役に立たないと思われている。しかしそう言う人は教科書に書かれていることを全部やってみたのだろうか。自分に都合のいいところ、すでにやっているところだけを掻い摘んで「教科書は役に立たない」と言っているのではないだろうか。

何でもそうだが、トラブルの原因も成功の鍵も一つだけの要因で起きたわけではない。多くの要素が複雑に絡み合って絶妙なタイミングで作用した時に偶然が起きたようにみえる。教科書に書かれていることはそこまで複雑ではない。最低のことだけが書かれている。だからせめて教科書に書かれていることは勝手に省略したりせずに全部をやってみなければ効果があるのかどうかすらわからない。

全部をやってみてそれでもうまくいかなかった時に初めて修正すればいいのである。中途半端な段階で自分勝手に修正してしまったら、何が原因で失敗したのかあるいはうまくいったのかがわからなくなる。

それは料理にも似ている。パラメーターは1つずつ変えて試してみなければ真実はわからない。塩の量を加減すればお好みの美味しい料理になったはずなのに、砂糖もお酢も醤油も一気にドバッと入れてしまったら何が何だか分からなくなってしまう。