20代の頃、趣味で自動車ラリー競技をやっていたことがある。日本では「パリダカ(パリ・ダカールラリー)」や石原裕次郎が出演した映画「栄光への5000キロ」で当時話題になったケニアで行われる「サファリラリー」などが有名だったが、日本でもJAF主催の自動車ラリーが細々と行われていた。ラリー競技はそのほとんどを行動を使って行われるので順法運転が大原則である。

自動車ラリーとは、一般の道やクローズドされたサーキットや林道で、決められたルートを決められた速度で走り、指示された速度で走った場合との所要時間の誤差の少なさを競う競技だ。知らない道を初めて走るとき普通は地図を見てルートを決めるのが普通だが、ラリー競技では決められたルートを走るのに地図は渡されない。渡されるのは「コマ図」と呼ばれる交差点などの曲がり角を示した図だけである。

コースの途中には「チェックポイント」と呼ばれる計測点が突然に現れて所要時間を計測され、それまでのコースを指示通りの速度で走ってきたかどうかをチェックされ、誤差があれば秒単位で減点される仕組みだ。

コマ図

助手席でナビゲーターは渡されたコマ図を見てドライバーに進むべき道を教えるのだが、どう表現したら自分の意図が伝わるかを常に考えなければならない。「550m先の信号付き交差点を10時の方向に右折」とか「300m先、ドン突きを右」などと指示を出す。そこにはドライバーとナビゲーターに共通の言語が必要だ。道を間違えてしまえば指示された速度で走ることはおろかゴールまでたどり着くことさえおぼつかない。

またラリーにはスペシャルステージ(SS)と呼ばれる特別区間が設けられることがある。とにかく早く走りきった者が勝ちというスピード勝負の区間だ。もちろん日本の公道には法定速度が定められているので、日本では私有林道やサーキットなどを貸し切って行われる。海外のラリーでは事前に走るコースが選手に公開されて試走することが可能なことがある。サファリラリーでもコースは前もって公開されるので、競技車の修理や宿泊するサービスポイントも事前に決められる。

SSで高速走行を指示される区間では、一般にはどんなに速く走っても指示通りに着くことは出来ない。曲がりくねった山の中の未舗装の林道を平均時速60km/hで走ることなどできないからだ。だから実質的には「早ければ早いほどいい」ということになる。そんなところでは先の見えないブラインドカーブの先のキツさやその先の状況を的確に伝えないとコースアウトしかねない。予想外のカーブでコースを外れて谷底に落ちれば完走できないどころか自分もケガをしかねない。

事前に試走して記録しておいたデータを元に速度やカーブのキツさをドライバーに瞬時に伝えるにはコマ図の説明とはまた違ったコミュニケーションテクニックが必要だ。とにかく時間の余裕はないから的確なタイミングで必要なことだけを正確に伝えなければならない。限られた情報を短い時間でパッと伝えるにはイメージが一番だ。

激しく揺れる車の中でドライバーは速度計など見ている余裕はないからカーブの大きさを伝えるにも「半径30m」などと言っても仕方がない。「右ヘアピン、2速フル(アクセル)!」「左カーブ3速全開!」などと言ったりする。カーブの大きさを伝えるのが目的ではない。どれくらいの速度なら曲がれるのかを伝えればいいからだ。今、何速のギヤで走っているかは常にわかっているしアクセルとブレーキは見なくても操作できる。

それでもそのコミュニケーションが乱れた時にはトラブルになる。そういう意味で自動車ラリーはコミュニケーションの正確さを競うゲームなのである。