あなたはガリを切ったことはあるだろうか?生姜の酢漬けではない。わら半紙に印刷するときにヤスリ板の上に置いたロウ紙に鉄筆(てっぴつ)でガリガリと字を書いていくアレである。ボクが最後に謄写版印刷をやったのは高校生の頃だから40年も前のことだ。横須賀市にある青少年会館の印刷室でのことだった。

ボクが小学生だった頃、印刷といえばガリ版印刷のことだった。ロウが塗られた薄いロウ原紙に原稿を書いていく。クラスの新聞係だったボクは学級新聞をガリ版印刷で作っていた。記事の原稿を考えたり書いたりするのは得意ではなかったが鉛筆の原稿をガリに切るのは好きだった。ロウ原紙はとても薄くて特に鉄筆で線を引いた部分は切れやすかった。

ロウ原紙は紙に薄く塗られたロウを削るので間違えればやり直しになる。それでも書き始めの最初のうちならまだ新しい原紙に書き直す気にもなるが、最後の最後に書き間違えたりするとウンザリする。そんな時は間違えた部分に修正用のロウを塗ってから乾かして正しい文字に書き直した。しかしロウの修正液をちょっとでも厚く塗りすぎてしまうと正しい字が書きにくくなって難儀した。今の紙に塗る白い修正液にも似ている。

出来上がった原稿は輪転機にかけるか謄写版という「プリントゴッコ」を大型にしたような印刷機で紙に印刷する。そうだ、まさにガリ版はプリントゴッコと同じ原理だ。原稿を作るときに鉄筆を使うかフラッシュで焼き付けるかの違いだ。ワープロやパソコンの普及でプリントゴッコもすっかり廃れてしまったが、年賀状が全盛に時代にはどこの家にも1台はあったものだ。

小学校の印刷室には輪転機があった。黒いインクが付いたスクリーンの上にロウ原紙を丁寧に貼り付けたら輪転機のハンドルをグルグル回すと何枚ものわら半紙に印刷することができたが、高校生の頃に青少年会館で印刷したときには謄写版しかなかったのでちょっと苦労した。

謄写版も同じようにインクの付いたスクリーンにロウ原紙を貼り付けるところまでは同じなのだが、印刷するときには1枚1枚わら半紙をセットしてからその上にスクリーンを下ろして、その上でインクの付いたローラーを押し付けて印刷しなければならなかった。だからちょっとでも手際が悪いとそこら中がインクで真っ黒に汚れた。

仕事をするようになってからは青焼きコピーやゼロックスが主流になって印刷物を配るということはほとんどなくなったが、パソコンやプリンターの時代になった今でも、電気を使わずに全てアナログで行うことができたあの頃の技術は、何かが起きたときにはまた役に立つこともあるのではないかと思っている。