クリスマスは誰にもやって来る、のか?

今を遡ること20年ほど前。僕は埼玉県にあるとある会社のシステム開発プロジェクトに関わっていた。当初半年ほどでリリースするはずだったシステムは、クライアントの度重なる仕様変更とそれに伴う膨大なバグを抱え、開始から1年半経った頃になっても終わりのないテストとバグフィックスに見舞われていた。

勤務していたのは都内だったが現場は埼玉県にあった。当時の自宅は横浜にあったため時間の節約のために現場のすぐ近くにホテルを取り、月曜の朝、自宅から埼玉の現場に向かうと帰りは日曜日の朝という生活をしていた。週に2~3日は徹夜作業になり、明け方に取ってあったホテルに入ってシャワーを浴びて下着を着替えたらそのまま現場のプロジェクトルームに戻って作業を再開するなんてことも普通だった。月の時間外労働はゆうに200時間を超えていたが、それも午前0:00から朝5:00までしか計算に入らない勤務制度での話である(週末に出勤したときは会社もフルに計算してくれた)。今にしてみれば恐ろしいほどの労働環境だったが、皆んなも「ショーがねぇだろ」と諦めていた、というより意識が朦朧として何も考えられなくなっていた。

プロジェクト開始から2年ほど経った12月のある土曜日。その日は珍しくテストの結果も良好で新たなトラブルも少なかったので、夜も0:00前にプロジェクトルームを出ることが出来た。当然終電車はとっくに終わっているので(埼玉から横浜に帰る上り電車は22:30頃に終わってしまう)ホテルに向かう駅前の広場を一人歩いていると有線のスイッチを切り忘れたのかクリスマスソングが流れていた。

 ♪ク~リスマスは誰にもや~って来る~♪

竹内まりやが歌っていた。あぁ今夜はクリスマスイブなのか。誰もいない広場を渡ってコンビニで売れ残った弁当を買ってホテルに入ろうとしたその時、突然携帯電話が鳴った。それはやはりトラブルの発生を告げる着信音だった。僕はホテルの入口をくぐることなく回れ右をしてプロジェクトルームへ向かった。

アレもクリスマス、それもクリスマス。クリスマスは誰にもやって来る。