言わずと知れた「刑事コロンボ」の決め台詞(?)だ。もう随分前に亡くなってしまったが声優の小池朝雄さんの声が何ともしっくりしていたものだ。最近、コロナ騒ぎでテレビの番組が作りにくくなったせいなのかどうかは知らないが、やたらと古い映画やドラマが放送されるようになった。刑事コロンボもそんな番組の一つだ。

ボクは子供の頃から刑事コロンボが好きでテレビドラマや本は全部見たり読んだりした、つもりだった。ところが最近放送しているのはかつて放送されていたそれらにはなかった話である。もちろんアメリカのテレビドラマを日本語に翻訳して日本で放送しただけなので、全ての話が放送されたわけではないのだろう。だから、言っては悪いが、ストーリー的にもちょっと雑で面白くないのだ。でも声優はやっぱり小池朝雄さんだ。放送されなかったものも作られていたのかと驚かされた。閑話休題。

「実はウチのカミさんがね…」と言うセリフは原文では”my wife, …”だけである。これを「ウチのカミさんがね」と翻訳したのは翻訳家の額田やえ子さんだと言われている。”my wife”に「カミさん」と言う言葉を当てたのはドラマ中のコロンボの性格やだらしない行動をキチンと監視している存在として「カミさん」がぴったりだと考えたのではないだろうか。

ちなみに「刑事コロンボ」シリーズでは数限りなくセリフには登場する「カミさん」だが、結局一度も画面には登場しない。NHKの幼児向け番組「できるかな」のノッポさんの声のようだったが、結局ノッポさんは最終回でその声をテレビの前で晒してしまった。

その点で”コロンボのカミさん”は永遠にミステリアスだった。一度だけ「歌声の消えた海」という回で、休暇のコロンボがカミさんと船旅に行くという場面があったが、ここでも「今回はカミさんが出てくるか?」と視聴者をハラハラさせながらも、コロンボとはぐれてしまったという設定になって結局最後まで出てこなかった。

肝心で深刻な話の中で急に”カミさん”の話題を持ち出すのにはどんな意味があったのだろうか。犯人は「コロンボは自分を疑っている」ということをわかっていながら完全犯罪にしようとしている。自分を疑っている刑事を警戒するのは当然のことだ。そこへ唐突に”ウチのカミさん”というプライベートな話題を振ることで相手を油断させて自分で自分を追い込ませるという罠ではないかと思う。

誰でもビジネスの話をしている最中に”カミさん”の話を持ち出せばプライベートのことかと思って油断する。油断すると気が緩んで余計なことを口にしたり簡単なトリックに引っかかってしまうことがある。それは”カミさん”を持ち出すことなく、自分の個人的な話でも同じことだ。緊張している中でちょっとでもそれを緩めるような話題に振ることで、ビジネスの話がスムーズになることがあるのは皆さんも経験があるだろう。

他愛ないジョークや打ち明け話は会話の潤滑剤にもなる。だから「実は」(打ち明け話)と「ウチのカミさんが」(プライベート)という二つの言葉が相乗効果を生み出して手強い犯人を自供に追い込んでいたのではないだろうかと今更ながらに思うのだ。