先日のこと、神奈川県の三浦半島で広範囲にわたって異臭騒ぎがあったという。異臭騒ぎといって思い出されるのは今から25年前に東京の地下鉄で起きた「地下鉄サリン事件」だ。オウム真理教が起こしたテロ事件では猛毒のサリンガスが使われた。朝の通勤時間帯に首都の地下を走る地下鉄の車内に毒ガスを撒くという暴挙で14人もの民間人の命が奪われた。
事件後は鉄道の駅や公共の場所に置かれていたゴミ箱などが次々と撤去されたり、地下街などでもいたずら半分に異臭を放つスプレーなどを撒いたりする事件が多発して、すわ!またサリンか!とビクビクしながら生活していたものである。
先日起きた三浦半島の異臭騒ぎでは東西南北の10数キロの広い範囲でほぼ同じような時間帯に「何かが焦げたような異臭がする」という通報が消防に寄せられ、消防や東京ガスが出動して調べたが原因は不明だったらしい。しかしこのように広い範囲で多くの人から通報があったということは単なるイタズラとは思えない。
その翌日のスポーツ新聞には、デマなのか真実なのかはわからないが「首都直下地震の前兆だ」という人の意見が載ったらしい。それによれば、ごく浅い地下にある断層などがズレ動いた結果、近くに中にある岩石などが摩擦でこすれ合って何かが焦げたような臭いがするケースが過去にもあったというが、ボクは経験したことがないのでなんとも言えない。また近くで地震があったわけでもない。
古くから三浦半島は活断層の多い土地だ。関東地方の地下では北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートの4つのプレートが複雑にぶつかり合う土地柄だ。その歪みは三浦半島に限らず神奈川県の二宮・国府津あたりにも多くの活断層として見られる。50年ほども前から「もうすぐ関東大震災が起きる」だの「東海地震が起きれば大津波が来る」だの「富士山が噴火すれば首都は壊滅する」だのと言われてビクビクした人生を送ってきたのだから、こういう話を聞かされれば不安に思う人が多いのは仕方がない。
人は不安になればデマを信じやすい。デマは意図して人を騙そうとして拡散されたり、ちょっとした個人の不安からありもしないことを信じ込んで広まってしまうことがある。本人は本当に不安だから口に出しただけで根拠がないかわりに悪意もなかったりする。しかしそれが多くに人の間に拡散すると買い占めや暴動が起きたりする。そうなってしまったら誰も冷静に判断することが難しい。
普段なら「そんなことあるわけない」と相手にしないことでも自分が不安に苛まれている時には突拍子もないことを信じてしまったりする。それが拡散して多くの人が信じてしまったりすればとんでもない事態に発展することもあるだろう。
今回の異臭騒ぎは今のところ原因も不明で根拠も確かではないが、首都圏の、特に神奈川県周辺の人間にとっては「今まで通りに正しく怖がって正しく準備をする」ということを続けていくしかないだろう。そういう意味ではこのところのコロナ禍の陰で忘れがちな災害への備えを思い出させてくれるいい機会になったと思っている。ただ、今回のこの話はデマであることを願っているが大地震はいつかきっと本当に必ずやってくることだけは間違いないのだ。