「村上ファンド」といえば元通産官僚で投資家の村上世彰氏が率いていた巨大投資ファンドである。当時、村上氏は銀行や証券会社、官僚の言いなりになって巨大な利益を食い物にしていた大企業に対して「もの言う株主」として金融の健全化を訴えた投資家としても知られていた。

もっとも当時の「ライブドア事件」に端を発したニッポン放送の買収に関わって、インサイダー取引の罪で逮捕・起訴され有罪が確定した人でもある。記者会見の場で罵声を浴びせてくる記者に向かって「お金儲けって悪いことですか?」と悪びれることもなく言い放ったのは印象的だった。

言っておくが、お金を儲けることは決して悪いことではない。あらゆる企業の目的の一つは「永続的にお金を儲けて事業を継続すること」だ。だからお金儲けが悪いことだというなら企業や商売人はあまねく悪人であり、その片棒をかつぐサラリーマンもすべて悪人だということになる。お金を稼ぐことですべての商売は回っている。

お金儲けは悪いことではないが、誰かがうまいことやって大儲けをすることが大衆には気にくわないだけだ。他の誰かが得すれば羨むし、自分だけが損をすることには我慢ならない。だから村上氏もホリエモンも必要以上にバッシングされたのだと思う。

当時は若手投資家として脂ぎっていた村上氏も逮捕後・執行猶予期間を終えるとシンガポールで投資家として活動しているらしい。還暦を迎えて脂も抜けてきたのか、様々な社会貢献活動にも資金を出しているのだという。「もちろんお金を稼ぐことは大切だが誰かの役に立つことをしなければ意味がない」というのだから随分と変わったものだ。

先日、高校生に投資を通じて社会を見る目を養って欲しいという意図で村上氏が主催している「N高等学校」という私塾がテレビに取り上げられていた。ここでは村上氏が提供した資金を高校生が実際の株式市場に投資する中で社会の仕組みを学ばせるという取り組みをやっている。もちろん生徒は未成年者なので投資するにあたっては保護者の了解をうることはもちろんだが、投資先にあたっては生徒自身の裁量で行い、利益が出れば自分のお小遣いになるが損失が出ても村上氏が負担するので損することはない。

その代わりにたまにある村上氏との面接では、どうしてその企業に投資しようと思ったのかなどを訊かれる。それに対して村上氏はいいとも悪いとも言わないし具体的なアドバイスをすることもない。彼が口にするのは「その企業はどんなビジョンを持っていて、何をしてどれくらい稼いでいる会社なのかを実際に見てきて知るべきだ」ということである。「現場を見てこい!」と言う。高校生たちは”投資家”として企業を訪問して実態を肌で感じる経験をする。

市井の投資家を見ているとどこの株が儲かるか、いつ値上がるかとお金のことしか見ていない人ばかりだ。「この株はテッパン(手堅い)だ」とか「あの株は大化け(急騰)するに違いない」などと企業の中身などまったく見ないで株の売買ばかりに没頭している。

以前勤めていた会社の同僚に、当時破綻した山一證券からやってきた同僚がいた。当時のボクは株に興味はなかったのだが、彼が話してくれる投資家という生き物の習性を興味深く聞いた覚えがある。ほとんどの投資家は企業やそのステークホルダー(利益に関わっている顧客や取引先など)、業務内容やビジョンにはまったく興味を抱かず株価ばかりを追っているのだという。それは証券マンたちも同じなのだそうだ。

彼曰く、そんなことばかりやっていると心がスカスカになってきて、多くの仲間が金融の世界に残る中「やっぱり実業の世界に入りたい」と言って製造業に転職してきたらしい。山一が破綻しなくても「もう辞めよう」と思っていた矢先だったのでいいタイミングだったとも話していた。

実際の製造の現場を見ていると株価ばかりを追いかけていた時には見えなかったものが見えてくるのだという。それが彼のいう虚業ではない実業の世界なのだそうだ。

世の中を見ていると経済は為替と株(投資)だけで動いているように見える。しかしその陰にはものを作ったり売ったりサービスしたりする現場があるからこそ実態の経済が回っているのだ。そのことの大切さを若い世代にきちんと教えることはとても大切なことだと思う。モノより思い出ではないが、カネより志が大切だと言うことをキチンと教えられる人がいると言うことはまだまだ捨てたものではない。