先日、友人がSNSで「正常性バイアス」に触れていた。何か問題が起きても自分とは関係ないと思ったり大した問題ではないと、つい自分にとって都合のいい方向に考えてしまったりと今起きている事態を過小評価してしまう心理特性のことをいう。よく何かが起こっても「そんなの平気だよ」と口にする人がいるがまさに脳が正常化バイアスに侵されている人だ。そして大丈夫な理由ばかりを探し始める。

「バイアス」は偏向性とも言われる。簡単に言えば偏った考え方である。中には気が弱かったり心配性の人もいるがその場合はある程度の対応を前もって想定しているのであまり問題にならないことが多い。問題なのは正常性バイアスが非常に強い人である。

車を運転していても自分だけは事故を起こさないと思ったり自分だけはガンにはならないと思ったりする。天気予報で「明日は大型で強い台風が直撃します」と言っているにも関わらず根拠もないのに「大丈夫だよ、大したことないよ。今までだって平気だったんだから」などと言って何も備えをしない人だ。何も備えをしないからいざその場で困難と直面してから慌ててなんとかしようとする。災害で命を落としてしまう人の多くはそんな人だ。東日本大震災が起きた時も「地震の後には津波がくる」と子供の頃から言われ続けてきた人たちがどういうわけか「どうせ津波は来ない」と考えて避難せずに命を落とした。

なぜそう思ってしまう人が多いのか。人間はもともとストレスに弱い生き物だ。いつも何かが起きるのではないかと心配していると精神に余裕がなくなって心が破綻してしまいかねない。災害や人の死などの嫌なことがあった後でもそうだ。時間が経てば嫌な記憶は薄れてやがて忘れてしまうことも多い。だからこそ心の平安を保つことができるのだと言われている。つまり人間の精神的自己防衛反応でもある。正常性バイアスもその一つだと考えて差し支えない。

昔の映画など見ていると、日本が沈没したり街が怪獣に襲われた時には人々がパニックに陥って逃げ惑う様子が描かれるが最近では、実際には多くの人が起きている事態を目の当たりにするまでは正常化バイアスによって対処行動を起こしにくいことが明らかになってきた。ボクのかつての職場でも東日本大震災が起きた時、その瞬間に仕事の手を中断した人はごく僅かだった。どうでも良さそうな会議ですらも中断されることはなかった。側から見ればおかしな光景である。大地震が来ても誰もそれに気づいていないかのように振る舞うのだから。

しかし楽観的に考えすぎると手痛いしっぺ返しを受けることがある。先の大地震や大型ホテルやデパートの火災でも多くの人が逃げようともせずに津波にのまれたり煙に巻かれて命を落とした。しかしその誰もが「死んでもいい」と思っていたわけではないだろう。最期の瞬間まで「俺が死ぬわけがない」と思っていたのかもしれない。

でもその瞬間が来ることは前以て感じていたはずなのだ。それでも何もしなかった。今回のウイルス騒ぎでも同じような行動をとっている人があまりにも多いのには、過去の反省をしない人間の姿が見え隠れしている。