フォークギターなんぞを弾こうとすると「コード」というものと無縁ではいられません。音楽でいうコードとはいわゆる「和音」のことです。例えばピアノで、

ド、ミ、ソ

の鍵盤を叩くと”Cメジャー”というコードになります。ハ長調です。ソ、シ、レを押せば今度は”Gメジャー”というコードになります。ト長調ですね。この時ピアノの鍵盤だと押す鍵盤が違うだけでどれも同じように鳴らすことができますがギターで同じように和音を鳴らそうとすればギターのネックを左手で押さえて(右利きの場合)右手で弦を🎶ジャーン🎶と掻き鳴らすことになります。

しかしギターの弦は通常太い方から、ミ、ラ、レ、ソ、シ、ミと順に高い音が出るように張ってありますからドの音を出そうとすれば5弦の3フレット目(フレットとはネックについている音程を変えるためのスジのことです)を左手の指で押さえて弾かなければいけません。同じようにミの音は4弦の2フレット、ソの音は3限の解放弦(何も押さえない)ということになります。

ギターの弾き語りなどしようと思えば最初はこのコードの”型”を覚えるのが一番手っ取り早い方法です。弾き語りの本など買ってくれば必ず譜面や歌詞の上にGとかAm(エー・マイナー)などの記号が書いてありますから”型”を覚えてその通りに押さえればあとは右手で掻き鳴らすだけで素敵な音が出るというわけです。大体の曲に使われているコードはせいぜい10〜30くらいのコードに限られていますからそれくらい覚えておけば大抵の曲の弾き語りはできるようになります。

ところがその中でも頻繁に出てくる”F”というコードは曲者です。正式には「Fメジャー」「Fマイナー」、「へ長調」や「へ短調」の和音です。CやG、AmやEmなどのコードは比較的簡単にサッと押さえられるのですがFのコードを押さえようとすると「1フレットの6つの弦全部」を左手の人差し指1本で押さえなければなりません。しかも親指以外の他の3本の指もそれぞれに押さえるポジションがあるのです。曲を歌っている最中にもコードはどんどんと変わりますから途中でFのコードに変わった時には素早くサッと押さえ直さなければいけません。「素早くサッと」です。これがフォークギター初心者が最初にぶち当たる「Fの壁」です。

Fコードはとても多くの曲に使われていますからいつまでもこれを避けていると弾ける曲はごく限られてしまいます。ゆっくりと押さえようと思えばなんとか押さえることはできてもすぐに左手はプルプルして指に力が入らなくなってブッ、ボッ、ベッ、ビッという雑音になってしまうのです。このコードを綺麗な音で鳴らすには、まさに左手の指に血の滲むような訓練が必要です。

おそらく初めてフォークギターを触った人がFコードを克服するには最低でも3ヶ月くらいの猛訓練が必要です。毎日数時間、ギターを練習し続けても短くて3ヶ月くらいはかかります。そうして練習する間に指の皮にはタコができて分厚くなり人差し指の力の入れ方がわかってくるわけです。そしてある日ある瞬間に突然、

🎶ボロロ〜ン🎶

と澄み切ったFの和音が響くときがやってくるのです。
この「Fの壁」はほとんど全てのギタリスト達が乗り越えてきた高い壁です。今では超絶技巧のテクニックを持つプロのギタリストも最初にぶつかるのは必ず「Fの壁」なのです。しかしそれは一度乗り越えてしまえばすぐに忘れてしまうようなあたりまえのことになるのですが、最初は想像を絶するような努力と根性がなければ成し得ないのです。

先日テレビで元SMAPの草彅剛くんもそんな話をしていました。草彅君はギターを始めて7年ほど経つらしいのですが、親友だというユースケ・サンタマリアさんが「彼ほどギターが上達しない人は珍しい」と証言するほど不器用なんだそうです。草彅君はFコードを克服するまでになんと1年もかかったといいます。それでもその間、ヒマさえあればギターを取り出しては常に触って練習していたといいます。「いくら不器用でもずっと熱心にひたむきに努力すれば事は成せるんだなぁ」とはユースケ・サンタマリアさんの言です。

ボクも「Fの壁」を乗り越えるまでに3ヶ月以上かかった記憶があります。中学1年生の夏でした。左手の指の皮は切れて血が滲み、それが固くなってタコになった頃に壁を乗り越えたのです。それが今ではギターを弾くこともほとんどなくなり指のタコさえすっかりなくなってしまったにも関わらずFコードを押さえる事は特に難しくも感じません。それは自転車の練習に似ているような気がします。ある日突然なんの前触れもなくできるようになるのです。

何か大きな障害に直面した時にはいつもこの時のことを思い出します。ひたむきに続けていればいつかきっと朝はやってきます。でもそれはずっと先のことかもしれません。