小学生の頃、やたらと宿題を出す先生がいた。受験勉強に熱心な先生だった。学校が終わってすぐに家に帰って始めてもその日のうちに終わるかどうかというようなもの凄い分量である。それが月曜日から土曜日まで毎日続く(当時は土曜日は半ドンだった)。もちろん遊ぶ時間などない。ないけれど他のクラスの友達は宿題など大して出ないので遊んでいる。だからつられて一緒になって遊ぶ。当然宿題は全く終わらない。翌日学校で先生に怒られる。そんな生活が2年ほど続いた。あの時ほど勉強が嫌いになったことはない。宿題なんてなければいいのに…。

今なら自由な時間があれば自分から進んで読書をしたりするのにどうしてあの頃は「宿題だ!」と言われなければやらなかったのだろう。それはたぶん宿題だと言われなければ何もしないで遊んでばかりいたからに違いない。でもテレビでは”遊ぶのが子供の仕事”だと言う大人もいた。遊ぶのが仕事なら勉強などしなくてもいいのかといえば「子供の本分は勉強だ」と言う大人もいた。やっぱり両方やらなければいけないらしい。兎角この世は生きにくい。

大人から強制されなければ勉強する気にならなかったのは、勉強よりも遊びの方が楽しかったからに他ならない。いやもっとハッキリ言えば「勉強がつまらなかったから」である。漢字の書き取りや算数の計算などやればできるのにやるのに時間ばかりが掛かった。漢字ドリルの30ページから40ページに載っている漢字を1文字について200回書けと言われればそれなりに時間がかかる。そこに載っている漢字は100文字もあるのだ。それだけで2万文字である。

意味もない書き取りを2万文字もやるのは誰だってツマラナイはずだ。テーマを与えられて作文を書いたり本を読んで感想文を書くのなら原稿用紙50枚だって苦にならなかったが、漢字の書き取りには閉口した。そして今やその漢字はパソコンで一発変換されるのだからなんのために憶えたのかわからない。読んで意味がわかればいいのなら書き取りなどせずとも本を読めばいいだけだ。なんとも無駄な時間を使ったものだと思う。

数学でも国語でも社会でも英語でも、ただ覚えるだけの勉強はとにかくツマラナイ。憶えながらモノの道理を新たに理解できるようになるからこそ勉強は楽しい。「初等教育とはそのための手段を勉強するものだからつまらなくても我慢して憶えなければいけない」と言う人がいる。ウソだ。やり方によってはもっと楽しい憶え方だってあるのだ。

中学生の理科の時間に時に「元素周期律表」を覚えようとして難儀した人も多いと思う。「水兵リーベ・・・」などと訳のわからない呪文を唱えながら暗記した人もいると思う。だがそれは大人になった今、何かの役に立っているだろうか?

ボクは小学5年生の時にどういうわけか魔が差して代々木ゼミナールの冬期講習というのに参加したことがある。そこで言われたのは「周期律表を呪文で覚えたって意味はない」という言葉だった。水素、ヘリウムリチウム、ベリリウム、・・・。小学生の柔らか頭なら100個くらいの元素名の暗記などすぐにできる。呪文をあとから元素名に変換する必要もない。それに周期律用の後半部分など呪文でも覚えられないのだ。それに周期律表など頭から丸暗記しても意味はない。似た性質を持っている元素は縦に並んでいるのだから(笑)

元素のイオン化傾向だってそうだ。クラスにはテスト前になるとイオン化傾向の呪文を唱えている友人がたくさんいた。しかしそもそもイオン化傾向ということの意味をわかっている人はほとんどいなかった。45人のクラスでそれをわかっていたのはボクとフカシ・テラサワだけだった。

イオン化傾向は金属分子を不安定な順に並べたものである。”不安定”とは反応のしやすさということだ。言い換えれば原子同士の結びつく力が弱いということになる。例を挙げると、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛なとという順番だ。イオン化傾向の大きな金属ナトリウムなどは空気中に出せばすぐに他の元素と化学反応を起こして化合物を作ろうとする。多量の金属ナトリウムを水の中に入れたりすれば大爆発を起こす。だから実験室では石油の中に入れて保管している。そんなことを知らずにイオン化傾向だけを覚えてテスト問題に解答できても意味はない。マグネシウムだって粉末に火をつければ爆発的に燃え上がる。

これ以上に詳しく勉強しようとすれば大学で電子や原子核のスピンの問題まで学ぶ必要があるがそんなことは一般の生活にはほとんど関係がない。しかし危ないものと比較的安全なものを知っておくことは生きる知恵として必要なことだ。

「小さな子供に最初から意味を教えようとしても分かるわけがない」などと考えるのは大人の高慢以外の何物でもない。そんな子供が大人になって物事の本質をわかろうとしたことがどれほどあっただろうか。そして今度は意味もわからない大人が答えだけを無理やり覚えさせようとするのが日本の教育である。そんな日本で子供が勉強を好きになれる日がやってくるのはいつなのだろうか?