相も変わらず「お受験」の話題には事欠かない。今では小学生の1割以上が私立中学を受験するのだといい、その受験勉強は小学3年生頃には始めなければ手遅れになるのだという。それ以前に「幼稚園のお受験」をする子供もいるわけだからこの子たちの人生の前半はほとんどが受験勉強に費やされることになる。別に受験勉強が悪いと言っているわけではない。「イタリアはどこにありますか?」と聞かれて「…、アメリカ?」などと答えているおバカキャラのタレントのような子供ばかりになってしまうのも困ったことだ。

ある程度の”常識”を身につけるために学校の勉強やテストは必要不可欠だ。読み書きソロバンくらいはできないと(ソロバンを使うことはほとんどなくなったが)日本で普通に生活していくことはかなり難しい。学校でも学年が進んでいくと難しい漢字や計算問題、歴史や政治経済の基本的な知識を身につけることができる。おおよそ中学校を卒業する頃には最も基本的な事柄は曲がりなりにも網羅され、その後の本人の向学心にもよるが独り立ちして社会で生活できるようになる。そのための義務教育だ。子供の保護者にはこの初等・中等教育を子供に受けさせる義務がある。がしかしだ、

ご存知の通りその先には高校、大学などに進学する高等教育の道があって今では高校の進学率は98.8%以上、大学と短大を含めた進学率も60%近くに達している。昭和の中期には「高校くらい行っておかなきゃ」と言われていたものが「大学に行かないといい仕事に就けない」などと言われ始めて大学受験が過熱し「受験戦争」と言われるようになった。しかし受験を乗り越えて大学にさえ入ってしまえばあとは”自由に遊べる”とばかりに真面目に勉強する学生などほとんどいなかった。それでも「学歴」だけを求めて進学率は右肩上がりだ。

親にしてみれば子供の将来を考えて少しでもいい学校(?)に入れて幸せな将来を迎えて欲しいと思うのかもしれない。いい学校に入ればいい会社に就職できて高給が保障され、世間にも自慢できるような箔がつき、素晴らしい人生が送れるものだと思い込んでいる。それもある意味、限られたごく一部の子供にとってはそんなこともあるかもしれない。「将来の選択肢を増やすためにあらゆることを学んでおかなければいけない」という強迫観念に駆られてあらゆる習い事を子供に強いる。

しかしそれをして結局は子供に何をさせたいのだろう? 親の望む子供の将来の姿はなんなのだろう? そもそも高学歴の自分はそんな幸せな将来を手に入れられたのだろうか? 限られたごく一部の大人はそれを手に入れたかもしれない。でも幸せってなんなのだろうか? 受験戦争を勝ち抜いて東大に入って官僚のトップまで上り詰めても自分の家庭の問題すら解決できずに息子を刺し殺してしまう人もいる。多分それまでは誰もが羨むエリート官僚として君臨していたはずなのに。

誰でもつまらないことをやらされるのは苦痛である。お受験や「子供のため」などと思い込まされているのは単なる業界の商業主義にすぎない。最近は受験勉強だけでなく「リーダー体験」などのセミナーもあるという。子供のうちからリーダーになるべく英才教育を受けるらしい。しかし中にはリーダーになんてなりたくない子供だっている。リーダーの後について行くのが好きな子供だっているし一匹オオカミが好きな子供だっている。全員がリーダーである必要などないし全員がリーダーになったら世の中は動かなくなる。

そもそもリーダーというものは自分が望んでなるものではない。リーダーはみんなから好かれ尊敬され信頼されて選ばれるからリーダーになるのだ。勉強したからといってリーダーになれるわけではない。逆に信望のないリーダーなど迷惑なだけである。多くの人に選ばれる人こそがリーダーに相応しい人間なのではないだろうか。

中学合格が人生のゴールだというのは学歴社会の考えの成れの果てだ。いい中学に入ればエスカレーター式にいい大学、いい会社に入って幸せになれるなどと信じている親が大勢いることに呆れている。かつて大学受験が過熱したのも一緒だ。もっとも「大学に入ってしまえば遊べる」というバブル時代の伝説もあったわけだが。

スポーツ庁が行なった「全国体力運動能力運動習慣等調査」の結果が先日発表された。子供の運動能力については随分前から右肩下がりになっていることが報告されていたがそれが改めて報告されたわけだ。これに対してスポーツ庁長官は「テストで高得点が得られるように指導方針を見直さなければいけない」と言ったのだという。とてもスポーツ行政のトップともあろう人間の言うこととは思えない。大切なのはテストで高得点を上げることではない。子供の体力を維持していくことだ。それこそが目的ではないのか。日本の教育行政は根本から間違った方向に向かって全速力で駆け出していると言わざるを得ない。

本来勉強にゴールなんてない。一生が勉強である。ここでいう勉強は受験勉強のことではない。”知りたい”と思ってやりたくてやる学びのことだ。「さかなクン」というタレントさんがいる。魚が大好きで魚のことならなんでもずーっと勉強したり観察したりしているらしい。魚の絵を描いても特徴をバシッと捉えた素敵な絵を描く。政府の官僚になるのとは別の人生だが、彼の生き方も楽しい幸せな人生の一つなのではないかと思うのだ。