駅ビルや百貨店のカルチャー教室などでも各種の資格取得セミナーは相変わらず大盛況だ。以前は書道や生け花、茶道、お料理などの趣味の領域が多かったが10年ほど前からはパソコンや簿記などの就職に有利な資格講座が増えている。ある意味でお料理などもそうだが見栄えのいいおしゃれな料理メニューを覚えて帰ったとしても日常生活の中でそれが役に立つことは稀だ。そのようなよそ行きの料理は毎日食べていると飽きてしまうのだ。子供の頃から食べて来たありふれた家庭料理は毎日でも簡単に(語弊はあるが)作れるし飽きてしまうこともない。

資格教室ではもちろん実習もあるが座学が中心になる。また実習でも練習問題として行うだけなので実践に即した業務の実際を学ぶことはできない。なぜなら現場で実際に行なっている業務は非常に細かく多岐にわたっていてその一つを教室で習得したところで実践で役に立つことはない。

以前にホテルで同僚だった中年の女性が思い立って「パソコン教室」に通い始めたことがあった。ボクらが通達や稟議書類を作っているのを見て「私が代わりにやります!パソコン教室に行っているので作れます」と言ってきた。面倒で時間のかかる作業だったのでお願いした。すると翌日に「出来ました!」と件の書類を持ってきた。それはワープロソフトで綺麗に装飾されたカラフルでお洒落なレストランメニューのような稟議書だった。さすがに怒られるだろうと思ったがそもままそれを持って支配人のところへ説明に行った。案の定支配人は苦笑いしながら「ふざけてるのか」と言った。「作り直してきます」と言って事務所に戻りテキストエディタで作ったなんの装飾もないありきたりの稟議書を持って出直した。その場で稟議は通った。

現場をなにも知らず経験したこともない人でも資格を持ってさえいれば能力が高いと思われている。だから多くの人は資格教室に通って資格を取る。そして現場をまったく知らない人が現場を仕切るようになる。それなりに教室で学んだのだから頭デッカチで、試験勉強で培った知識だけは豊富なのだが現場のことはなにもわかっていない。資格はツールではない。金づちの使い方を本やネットで読んで勉強しても現場でうまく釘が打てるようになるまでには長い年月がかかる。

資格を取った瞬間からなんでもできるようになったと勘違いする人は多い。それは管理職に特に多い。資格を持った人間なら何も指示しなくても自分で仕事を探してきて処理してくれると思っている。現場の経験者でさえ他の職場に行けばそこのしきたりを覚えるまでには何週間もかかるのだということをポッと出の管理職にはわからない。人事で横滑りしてきた人間にも現場は何もわかっていない。そうやって職場は非効率となり崩壊していく。

「事件は会議室で起きているんじゃない!」と織田裕二でなくても叫びたくなるのだ。