日本人は何かというとお辞儀をする。知り合いとすれ違えば会釈をし上司の前ではお辞儀をする。レストランでも商店でも何かをお願いするときにもお辞儀をするし、失敗したり謝る時にもお辞儀をする。日本でお辞儀はあまりにも一般的なので万国共通の作法だと思っている日本人が多いが世界を探しても特に西洋ではお辞儀をする民族はいない。極端なことを言えば東アジアの日本人と中国人、タイ人、ベトナム人くらいだ。海外旅行に行くと現地の人はこちらが日本人だとわかればお辞儀を返してくれることもある。そんな時はたいてい合掌とセットになる。他にもお辞儀の国はあるのかもしれないがボクは今までに出会ったことはない。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と言われるように頭を下げることは謙って相手に敬意を表する態度である。千利休が作った茶室の入り口は躙口(にじりぐち)と言われとても背が低く狭い。武士も入る前には刀を置いてどんなに偉い人でも頭を下げなければ入れないようになっている。茶室の中では身分に関係なく丸腰で等しく人として振る舞うべしという思想の現れだといわれている。

西洋人は挨拶をする時に握手をしたりベソ(抱き合って軽く頬にキス)するのが一般的だが、幕末から明治維新以降に西洋文化に触れた日本人も挨拶に握手を取り入れたがお辞儀を捨てることはなかった。だから今でも日本人の挨拶は握手しながらお辞儀をするスタイルが一般的になっている。海外から首脳がやってきた時には天皇陛下も総理大臣もすべからく握手をしながらやっぱりお辞儀をしている。

「物を食べる時には座って食べなさい」とか「目上の人には敬語や丁寧語を使いなさい」などの日本の文化の中にはいつの間にか捨て去られてしまったものも多くあるが、おそらくほとんどの日本人の中にはお辞儀という文化が残っている。昭和の頃には欧米コンプレックスから握手をしながらペコペコとお辞儀をするのはカッコ悪いと言われたこともあったが、1000年以上のいにしえから脈々と続いているこの文化をボクは誇りに思っている。