ほとんどの人が聞いたこともないような物質の名前を”有効成分”として前面に出して性能をアッピールするやり方は昭和の時代から始まったような気がする。その先駆けになったのが花王のシャンプー「メリット」の”ジンクピリチオン配合”ではないだろうか。その後は風邪薬・新ルル-A錠sの「 アセトアミノフェン 」や「クレマスチンフマル酸塩」、鷲のマーク大正製薬・リポビタンDの”タウリン1000mg”などなど数えきれない製品に「なんかわかんないけど凄そう」な名前の有効成分が使われて最前面に押し出されている。

ジンクピリチオンは脂漏性皮膚炎に効果があるとされているがそれ自体には若干の毒性があり、国立環境研究所から環境ホルモンの疑いが発表された。そのせいでもないだろうが、今では有効成分はグリチルリチン酸ジカリウムに変更されている。だが素人にとってはどちらでも同じだ。その成分がどんなものでどれほどの効果があるかなんてどうせわからないのだから。

この「なんかわからない」ところが大切なのである。だからちょっとでも中身が推測できるような”~アルコール”、”~脂肪酸”のような名前ではダメだ。「あぁアルコールなのね」とか「結局は酸でしょ」などと知ったかぶった人に”大したものじゃない”と誤解をされかねない。つまり今まで聞いたことのないような皆目見当もつかないようなオマジナイのような名前こそが効果的なのである。

これについては小説家の清水義範氏が「ジンクピリチオン効果」と命名し、「どのようなものかは分からないのに、その言葉の響きだけですごそうだ」と思ってしまう心理的な反応があると説明している。その効果があってメリットシャンプーは大ヒットし今でも売られているロングセラー商品になった。

分野は全く違うが、ミャンマーの政治指導者として世界的にも名高いアウンサンスーチーさんの名前は一度くらいは聞いたことがあるだろう。こんなに長いミャンマー人の名前を日本人の多くが記憶していてスラスラと口に出せるということも驚きだ。凄い人や凄いと思っている有効成分の名前には強烈なインパクトがある。その人がどんな人でどんな功績を残したかなんて関係ない。すべては「なんかわかんないけど凄そう」なのである。

”なんかわかんない”といえばビールのキャッチコピーにもこんなのがある。「コクがあるのにキレがある」。漫画「美味しんぼ」でも主人公がたびたび口にするセリフは「まったりとしてそれでいてしつこくない」。いやいや”コクがあればキレは悪い”し、”まったりとしている”ということはしつこいのだ。ここでも言っている意味がさっぱり分からないことが一番大切だ。こんなキャッチコピーは反対の意味の単語をくっつければ誰にでも作れる。

理解不能な言葉も最後まで突き詰めていけば強力なアピールが可能なのだ。結局は、なんかわかんないけど凄そうなのである。