NHKに「ダーウィンが来た」という番組がある。世界中の生き物を毎週ひとつずつ紹介する生き物情報番組だが、その中に「ヒゲジイ」というアニメのキャラクターが時々登場する。生き物の不思議な生態を紹介する場面で急に登場して「ちょーっと待ったぁ~!」をかける。なぜそういう生態行動をするのか説明がない時に待ったをかけて素朴な疑問を投げかけるキャラだ。恐らく子供を意識したのだろう。最近はテレビでも職場でも「ちょっと待ったぁ~!」の掛け声のかかる場面をよく見かけるようになったが今の流行なのだろうか?

そんな叫び声が流行ったのは、ボクが覚えている限りでは、お笑いコンビ「とんねるず」がMCをしていた「ねるとん紅鯨団」という番組だったような気がする。ボクが20代の頃だったと思うのでずいぶん前の番組だが、それは一般から募った男女が番組の中でお見合いパーティーをするという企画で、番組の最後に「告白タイム」が設けられていた。男と女がそれぞれ1列に並んで男から自分が気に入った女の子に告白をするというものだった。その頃には「ねるとん」といえば”出会い系”を指す言葉だった。

当然”告白タイム”には1人の女の子を狙う男が複数になることもあり、その時は告白する相手の女の子の名前を言ったとたんに他の男から「ちょっと待ったぁ~!」と挑戦状が叩きつけられて一騎打ちになるという具合だった。ねるとんはその後、他にも似たような企画の番組が次々と出てきたのでそれぞれの世代ごとに思い出す番組は違っていると思うが、とんねるずのあの番組で「ちょ~っと待ったぁ~!」は大いに流行した。

途中までやりかけたことに待ったをかけることで、放っておけばズルズルと流されてしまうことを無理やり止めて立ち止まらせることができる。物事には物理でいう「慣性の法則」と同じように、動いているものは動き続けるという性質がある。止まっているものを動かすには力が必要だし動いているものを止めるにも力が必要だ。力を出すにはエネルギーも必要でリスクも伴うから、自分がどうでもいいと思っている事ならあえて現状を変えようとしない。変える意味がないものに力を使う人はいない。

しかしそれを変えることに意味があるかないかの価値基準は人によって異なっている。ある人にとってはどうでもいいことでも別の人にとっては重大な意味を持つことは多い。
先日香港で大規模なデモがあった。主催者側発表で100万人以上というから割り引いても凄まじい数だ。千葉市民が全員デモに参加するようなものである。デモの原因は中国の政治体制にも深く関係したことなのだが、同じような問題が日本で起こったとしてもこれほどの規模のデモは起きないのではないかと思っている。

日本では民主主義は表向き保たれ平和な時代が長く続いている。体制の大きな変化を経験した人は少なくなった。ほとんどの人はそのことで自分たちが迫害させるという実感を持っていない。だから日本だったら”自分には関係のないどうでもいいこと”として受け取られるのではないかと思う。しかし香港は長い間イギリスの統治領だったものが20年以上前に中国に返還され、自治の体制も大きく変わっているという。しかし未だに中国共産党の支配を嫌う市民が多いらしい。だから香港市民は「ちょっと待った!」の行動を起こした。それは香港の人口の15%近くにも上る。

人は時として、たとえ効率的ではなくても創造的な何かが生まれるかもしれないと思うとき、または絶対に守るべきものがあるときには「待った!」の声を上げるときがある。それは傍から見ればどうでもいいように思えることでも、本人にとっては絶対に譲ることのできない強い決心であることも多いのだ。