このところのニュースによれば「アポ電詐欺」なるものが横行しているという。不正な手段で入手したリストをもとに親族や警察官、役人などを装って電話をかけ、家にいくらくらい現金があるのかを巧妙な語り口で聞き出すらしい。そして家に現金があるとわかるや否やその家に押し入って強盗をはたらくのだ。あらかじめ家に現金があることを聞き出しているので、強盗に入ったはいいがお金もなかったなどという間抜けな空振りも少ない。そしてこの現金があるかどうかを聞き出すための電話をマスコミでは「アポ電」と呼んでいる。

「アポ電」とは営業などで訪問するために相手のアポイント(面会の約束)を取るための電話のことをいう。目的はあくまでもアポイントを取るためなので「アポ電」だ。だから電話で相手の家にいくらの現金があるかを聞き出すための電話ではない。そもそも電話をかけてもアポイントを取らないばかりかノーアポ(いきなりの訪問)で押し入って強盗をはたらいている。もっともアポイントを取って強盗に押し入るヤツなどいない。強盗の基本はノーアポであり奇襲攻撃だ。そして詐欺ですらない。ただの強盗だ。誰が「アポ電詐欺」という言葉を使い始めたのか知らないが、よほど世の中の常識を知らない人なのだろう。特にマスコミ業界にはこのテの人材が溢れている。

テレビのバラエティ番組などで時々使われている「カンペ」とは「カンニングペーパー」の略である。出演者がセリフを覚えられなかったりスタッフから出演者への緊急の指示を伝えるためにスタッフが大型のスケッチブックなどにマジックで指示を大書きして、カメラに映らない位置から出演者に見せて指示する。

これとは異なるがドラマや映画の撮影現場でも「カンペ」は威力を発揮するらしい。ドラマやお芝居では役者さんは長いセリフを覚えなければならない。しかもいくつもの現場を掛け持ちしていればそれぞれの現場ごとに異なる場面でのセリフが必要になる。しかしそれは基本的には撮影が終わってしまえば不必要な記憶だ。リハーサルや本番の時にだけ覚えて思い出せればいい。だがその場を凌ぐためにどうしても覚えられなかったセリフを撮影セットや自分が手に持つ小道具などに書いておいてカンニングするのだという。まさにテストの時だけ覚えていればいいのと同じだからカンニングが有効なわけだ。

しかし最近の若いタレントさんや俳優さんは「カンペ」という言葉の意味は知っていても語源を知らない人が多いと聞く。それは昭和の頃のような”テストのための暗記”というようなくだらない勉強が減ったからカンニング自体も減ったからなのだろうか。歴史の授業で様々な出来事の年号を覚えさせられたり、国語の時間に作家の名前と主な作品を覚えさせられたり、化学の時間に元素周期律表を覚えさせられたりした。歴史的出来事のおおよその年号を覚える事にはある程度意味がある。年号を比較して出来事の前後関係がわかれば「なぜそんなことが起きたのか」の因果関係を類推することもできる。しかし作家と作品名を覚える事にはほとんど意味がない。もちろんそれが書かれた歴史的背景を考える参考にはなるが、まずはその作品を読んでみなければ歴史的背景もクソもないのだ。

化学の周期律表に悩まされた人も多いだろう。これこそ何の役にも立たない。元素の重さが分かって「鉛は重いんだな」「アルミは軽いんだな」とわかるくらいだが、そんなことは普段の生活の中でとっくにわかっていることだ。周期律表が優れているのは”周期律”に従って元素が並べられている事だ。それは縦に並んでいる「アルカリ金属類」や「アルカリ土類金属」「ハロゲンガス」「不活性ガス」などの分類だ。これらは似た性格を持っている元素の集まりを示している。だからヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの不活性ガス類はイオンになりにくく化学変化を起こしにくい安定した物質だということが分かる。一方のアルカリ金属である水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどはイオン化傾向が高く不安定な物質で化学変化を起こしやすい。かつてドイツのヒンデンブルグ号という大型飛行船には浮揚材として水素が使われていたため、ある時にひょんなことでその水素に引火して大爆発を起こしてしまった。それ以降は飛行船や気球の浮揚材にはヘリウムが使われるようになった。

だからボクたちはテストの時にも周期律表を丸暗記するよりも「アルカリ金属」や「ハロゲン」などのグループを覚えることに主眼を置いていたが、テストの問題には聞いたこともないような元素の名前と原子量を問うような問題ばかりが出題され「このテストに何の意味があるのか!」と教師に食って掛かったものである。しかし教師は「それじゃ簡単すぎて点差がつかないんだ」などと訳の分からないことを言っていた。そのためテストには毎回のように周期律表の問題が出された。この時に日本の学校教育のバカバカしさを痛感したのである。

そもそもの意味も解らず目的も考えることなく、言葉の間違った使い方ばかりが横行している。もっとも今となっては「カンペ」はカンペでもいい。このIT全盛時代にカンニングペーパーのような効率の悪いカンニングをする子供は多くないだろうし、カンペはテレビ業界などで使われることが言葉の市民権を得ている。しかしあまりにも間違った使い方ばかりを大声で唱えることは、日本語の乱れは脇に置くとしても、コミニュケーションの障害を起こしかねない。特に言葉を生業とするマスコミ業界の功罪は大きいと言わざるを得ないのである。