バイキングで元を取る方法

詰め放題や取り放題、食べ放題、飲み放題などの〇〇放題は今も昔も花盛りだ。若い頃は居酒屋でも「飲み放題」で十分に元が取れているような気になっていたが、もはや今となっては何の魅力もなくなった。大して食べられないし飲めないので普通にオーダーしたほうがよほど安い。かつては一人5,000円以上もした居酒屋の飲み代も今では天ぷら屋に行っても2,000円ちょっとだ。いいことなのか悪いことなのか、いやいいことに決まっているではないか、ムダに暴飲暴食しなくなったのだから。

先日、テレビ番組で「ブッフェに行ったときには何を食べれば元を取れるのか」という話をやっていた。そう、昔は”バイキング”と言っていたが30年ほど前からは「ブッフェ」という言い方に変わってきた。何となくバイキングよりもスマートに聞こえるような気がするからかもしれない。”元を取る”というのは支払う料金以上に食べられるかどうかということだろう。

子供の頃、スキー場のリフトは回数券だった。ところがある年から「1日券」というものが発売された。ちなみに当時は10回券が500円で1日券が1,500円だった。つまり1日でリフトに30回以上乗れば”元が取れる”計算になる。そこである日、朝7時のリフトの営業開始からまったく休まずに滑り続けたら何回リフトに乗れるのか試したことがある。ところが実際にやってみると1つのゲレンデで同じリフトに乗り続けていると滑るコースも必然的に最短で降りられるコースに限定され休憩はリフトに乗っている間だけになり、黙々とベルトコンベアの上を流れてくる製品に部品をネジ止めする作業にも似てくる。それはもはやレジャーではなくなった。その上、リフトに乗っている時間がかなり長くてバカにならないのだ。リフトに乗って滑り降りてくるワンクールでおよそ20分、1時間で3本のペースである。朝7時から営業終了の午後8時まで昼休みも取らず休みなく滑り続けても33本しか稼げないのだ。つまり1日中空腹にも耐えて頑張っても3本分、150円ほどしか得をしないのである。結局その日は29本しか乗ることができずに”損”をした。本当につまらない1日だったことを今でも覚えている。

そしてそれはリフトの回数券もぎりのオジサンにとっては券をもぎり取る手間が減り、回数券売り場のオバサンにとっても都度、回数券を売る手間が省けて省力化になっていたわけだ。もっともボクにとっても乗るたびにポケットから回数券を出す手間が減って楽になったことも確かだ。小学生だったあの頃は「損した」としか思わなかったが、それがリフトのオジサン、オバサンにとってもボクにとってもWin-Winのソリューションだったのだ。

バイキングの場合はどうだろう。ホテルのブッフェレストランの原価率は20%台である。つまり1,000円の料理にかかる原材料の原価は300円かかっていない。しかしブッフェではない普通のレストランでは調理する手間の他に、注文をとったり料理を配膳したり食べ終わった食器を下げてくる手間があるのでそのための人件費がバカにならない。いや原材料費よりもその人たちの手配をしたり人件費に莫大な経費がかかっているのだ。ところがブッフェにすればお客さんの注文をとってくる必要もないし配膳する手間もない。お客さんは喜んで「何を食べようかしら」と自分で勝手にやってくれるのだ。「いくら食べてもタダなのよ~」と子供にけしかけているママたちをよく見るが人一人が食べられる量などたかが知れている。料理を作るにもトレーの上の料理の減り方を見ながら追加すればいいのでムダが少なくなる。レストランにとってもお客さんにとっても願ったり叶ったりなのである。実際にブッフェレストランや立食パーティーの粗利益率は他の和食や寿司、フレンチレストランに比べてとても高い。

レストラン側の事情はそんなところだがお客としてはどうなのだろう。得するには”いかに原価の高いものを食べるか”ということなのだと番組ではいう。原価の高いものをたくさん食べれば早く元が取れるという理屈らしい。しかし、しかしだ。ことは食事の話である。食べ物には人それぞれに好き嫌いの好みがある。いくら原価率が高いからといって夕食にメロンばかりを食べたくはないだろう。唐揚げが好きな人も多い。鶏の唐揚げはハッキリいってレストランのメニューの中では原価率が低いし脂っこいのでたくさん食べられない。だからといって大好きな唐揚げを食べないでメロンやお刺身ばかりを食べたいとは思わない。それなのに「損するじゃない!」と言って子供が好きでもない煮魚を無理やり食べさせようとするのはあまりにもケチであざとい人間のやることではないだろうか。

バイキングは好きなものを好きなだけ食べられるところが人をワクワクさせる原動力だ。それなのに好きでもないのに原価が高いものを食べるという姿はなんとも浅ましくはないか。欲しくもない好きでもないものを山のように積み上げる姿を見るとちょっとアホらしい。そもそも元を取るためにバイキングに行くのだろうか。本末転倒だ。

”〇〇放題で元を取る”というと、商売をしたことのない人は払った金額と食べた料理の定価の積み上げで考える。車を買う時に「〇〇万円分のオプションを無料サービス」などという宣伝文句をよく見かけるが10万円分のオプションの原価は3万円だったりする。だから営業マンに「オプションは要らないからその分値引きして」と言っても絶対に受け入れてもらえない。オプションなら3万円の販促費の支出ですむところを、値引きしてしまえば10万円まるまる売上が減ってしまうからだ。

話は変わるが、過去の経験からいうと高価な商品はあまり儲からない。高価なものの原価率は結構高い。ところが安いものの原価率は驚くほど安い。かつてアウトドアショップに勤めていた頃、店に入荷してくる商品を見ていると当時の高級なスキーは定価で10万円以上もした。その原価は8万円以上で、定価で売ったとしても1万円ちょっとしか粗利益が出なかった。しかしセール品の3万円のスキーセットの仕入原価は1万円もしなかったりする。こちらの儲けは1セットで2万円以上もあった。だから店はセール品の販売に一番力を入れるわけだ。儲からないものを売っても仕方がない。でも高級で高いものを置いておかないとお店の品揃えに華がないから仕方なく仕入れて置いておく。広告宣伝費としての必要経費なのだ。そんな高級スキーもシーズンの終わりまで売れ残ってしまえば半額に値引きしたりする。仕入れ値より安いので単純に赤字だ。しかしそれを残しておいても次の年には旧モデルの型落ちとなってますます売れない。それなら値引きして赤字になったとしても現金にしておいたほうがいいわけだ。在庫を倉庫に保管しておくにも経費がかかる。現金化すれば次の仕入れの原資として使えるのだから。

〇〇放題は得をしようと思って行くところではない。その時は得をしたと思ってもよく考えれば収支では損をしていることが多い。しかしそんな事ばかり考えずに「好きなものを好きなだけ食べられる!」というワクワク感を味わったほうが心が豊かでいられるのではないかと「放題」の看板を見るたびに思っている。

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