日本人は本当に器用なのか?

ボクは子供の頃、工作するのが好きだった。家は開発途上の新興住宅地の中にあり隣近所では次々と新築住宅が立てられていた。木材の端切れはそこら中で手に入ったから作りたいものがあれば何でも作れた。当時の子どもの遊びは「何かを作る」ことが中心だった。もっとも身の回りには単純な遊び道具しかなかったしゲーム機もまだ登場していない時代だったから、作るものといえば船や飛行機の模型、スマートボール(お祭りの屋台などにあるパチンコ台を横にしたようなもの)などが中心だった。それでも完成した船の模型を水に浮かべてちゃんと水平に浮かんだ時には「やったぜ!」と嬉しかったし、ペーパークラフトの紙飛行機が果てしなく遠くまで飛んだ時にはたとえその飛行機が遠くまで飛びすぎて行方不明になったとしてもその夜は興奮して寝られなかったものだ。

元来、日本人は手先が器用だと言われてきた。戦後、日本が高度経済成長を遂げられたのも手先の器用な日本人だったからこそと言われることが多かった。それは日本人は日常的に箸を使う文化があるからともいわれている。しかし最近はいい歳をした大人でもろくに箸を使えない人が多くなった。食事をしている人の手元をちょっとみればわかることだが箸の持ち方からしてドウシヨウモナイのだ。子供の頃にどういう躾をされたのかと情けない気持ちになる。本人にとっては別に不自由もしていないのだろうから他人からとやかく言われる筋合いもないだろうが、ペンや箸の持ち方1つでもある程度はその人の生い立ちが見えてくると思うのはボクだけだろうか。

そんな日本人の手先は今でも器用なのだろうか。今ではほとんどの精密加工はコンピュータ制御の機械がこなしておりシロウトが見てもベテランの職人さんがやった仕事と区別することが難しいレベルにまで進化している。もちろんだからといって職人さんの仕事を否定するつもりはない。匠の技を持った名工が数多くいることも知っているし、その人たちの作り出した作品が超絶技巧の技の結晶だということも分かっている。しかしそういったものは一般に非常に高価であり貴重品になってしまうのでボクが普段遣いできるものにはなりにくいのだ。だからボクの周りは安価に大量生産された工業製品ばかりだ。もちろんそのことだって否定的に考えてはいない。

かつて、多くの製品は人の手で作られており多くの普通の人がその仕事に携わっていた。高度経済成長の機械化の中でそういった作業はだんだんと機会やロボットに置き換えられてきた。普通の人が熟練してモノを作る時代は終わった。しかしごく一部には高度な技を受け継ぎその人にしか作れないものを作り続けてきた人もいる。マスコミではそういう人をことさら取り上げて「日本人は器用だ」だと言い続けている。だがよく見てみれば「日本人の中にはとても器用な人もいる」だけに過ぎないのだ。それ以外のほとんどの人はもはや「不器用な人」でしかない。

我々が子供の頃、庶民の間では編み物はお母さんやおばあちゃんが編むものだった。もちろん既成品も売っていたがまだ手編みのものが多くあった。特に子供の着るものなどは手編みが多かった。すぐに大きくなって着られなくなってしまう子供服は手編みで作っていた。着られなくなれば毛糸を解いてもっと大きなものに作り変えたりしていた。既成品はまだ高く、家で作るほうが安かった。しかし機械化が進むと既成品は一気に値下がりしデザインも凝ったものが増えた。自分で作る手間を考えたら買ってきたほうが安いしラクだということになった。

何でも既成品を買ってきて済ませる生活の中で、家具も服も料理も何も作ることをしない人の手先が器用になるわけがない。器用になるのはその人が鍛錬した結果だ。人知れず鍛錬し続けてきたからこその賜物なのだ。努力もしないのに生まれつき手先が器用な人間などいない。”努力”と聞くと辛くて嫌なことだと思い込むフシがあるが努力することは必ずしも辛いことではない。それをやることが楽しいのなら努力することも楽しくなる。

小さな鉄道模型を作っている人がいる。電車はおろかそれを走らせるためのジオラマ(箱庭)まで丁寧に作り込んでいる。「そんな面倒くさいことをよくやるなぁ」とボクは思うが本人とっては楽しくて仕方がないのだ。スマホや何やらのゲームだって同じだろう。おカネにもならないのに一日中熱中してやり続けている。「アホらしい」と思うが本人は楽しいのだ。それにひとたびゲームをやらせたらどんなゲームでもボクよりは格段に上手くプレーできるに違いない。それが鍛錬だ。

衣食住の中で何でもただ出来合いを買ってくる生活をして、そんな楽しみに出会う機会はほとんどなくなってしまった。生活の中で鍛錬する必要が何もなくなった。そんな日本人の手先が特別に器用だとは思えないのだ。もっともボクはゲームが上手くなりたいと思わないのでゲームの鍛錬はしない。

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