きっとうまくいく

入学試験に落ちる、就職試験に落ちる、資格試験に落ちる、お見合いに失敗する、株で大損する、宝くじに外れる…、チャレンジに失敗はつきものだ。言ってみれば人生なんて99%の失敗と1%の成功でできている。人生は失敗の連続だ。すべからくほとんどのチャレンジは失敗に終わる。運が良ければごくまれにうまくいくこともある。誰でもうまくいけば嬉しいし失敗すれば落ち込む。悲しいことに圧倒的に悲しむことが多い。

人は誰でも何かをやる前には「きっとうまくいく」と思うものだ。人前では「どうせ失敗するよ」「落ちるに決まってるよ」などと言っていても自分の心の奥底では「きっとうまくいく」と少なからず期待している。失敗することなんて考えない。だから失敗した時にうろたえる。そうでなければ失敗した時にあんなに落胆するわけがない。ほとんどの場合に失敗するのにだ。「やっぱり駄目だった」と口では何でもないように装いつつ心にはザックリと深い傷を負っている。

「人前でアガらないようにする方法」というような本が売られている。昔から手を変え品を変えずっと売られ続けている。いつまで経ってもなくならないということはたぶん、一定数の人が必ず買っているということなのだろう。確かに人前でしゃべる時にアガってしまって支離滅裂になった経験を持つ人も多いだろう。あれだけ練習したのだから本番でアガらなければ確実に実力を発揮できたのに、と思っても後の祭りである。

講演会やバンドのステージの幕が上がる。足元から客席が少しずつ見えてくる。薄暗い客席にお客さんの姿がボンヤリと浮かび上がってくる。パッとスポットライトがあたる。その瞬間に突然、客席はほとんど視界から消える。スポットライトの明かりは意外に熱い。話すべきことも演奏すべき曲も一瞬、頭から消えて意識も朦朧(もうろう)とする。1,2,3。3つ数えてふっと我に返る。喋ろうとするが声が出ない。それでも幕が開いてしまった舞台はもう止めることができない。万事休すだ。

どうしてアガるのだろう。それはきっと「上手くやろう」と思うからだ。上手くこなしてみんなから称賛される自分をイメージしているからだ。一方で細い丸太橋の上を歩く自分の姿も見える。上手に向こう側へ渡りきれれば喝采されるが途中で落ちれば谷底に真っ逆さまだ。怖い、そう思うからこそ体はこわばり手のひらや脇に変な汗をかき、喉はカラカラに渇き、視線も定まらなくなる。もう一度言おう、上手くやろうとするからだ。

何時も平常心でいることは難しい。失敗したくない、上手くやってのけたい、カッコ悪いところは見せたくない、優れた人間だと思われたい。どれも人が普通に持っている感情だ。一方で「失敗してもいいや」とか「駄目に決まってる」と心の底から思いながらチャレンジすることはまずない。本当にそう思っているならそもそもチャレンジなんてしない。アガらないようにするには「どうせ失敗する」と思って事に望め、とモノの本に書いてあったりする。やりたくないことを命令されて嫌々やるならそういう気持ちになれるかもしれない。しかしそんなときこそ失敗すればストレートに怒られたり非難されたりする。しかし自分がやりたいことにチャレンジする前にそんな気持ちになることはない。上手くいけば思い通りの人生(は大げさでも)が過ごせるようになるのだから。どうも世の中はうまくいかない。

友達や知り合いの人と話をする時には別にアガらない。ステージでもお客さんが皆知り合いだったりするとあまりアガらない。人数や会場の大きさにはあまり関係がない(武道館でリサイタルをやったことはないのでそこまでいくとわからないが)。少人数でも知らない人達の前で話すときは緊張する。数人を前に小さな会議室で話すときでさえ緊張する。おそらくはお客さんが自分の味方であるかどうかがまだわからないからなのだと思う。つまり自分の対して温かく接してくれるか敵対的な態度を取られるかがわからないからだと思っている。いわゆる試験だってそうだ。基本的に試験は誰かを”落とす”ために行われる。受験生にとってはまさに”敵対”している。

だからアガらないようにするには相手を、お客さんを味方にすればいい。いや相手がどう思おうとじぶんだけがはそう思えばいい。試験ならどんな問題が出てもあっさりと答えられるだけの実力をつければいい。簡単な問題を出してくれる相手なら自分の味方だ。そうすればきっとあまりアガらなくなる。それでも何を話しても反応がなかったりノリが悪かったりすると敵対的な態度に感じてしまいやすい。結局、どんなときにもアガらないようにする方法などないのだ。もし自分がアガらなかったらそれをやる気のない時だけかもしれない。

失敗が続くと何かを始めるのが怖くなる。チャレンジする勇気がなくなってくる。失敗し続けると自分がやりたいことでも「きっと失敗する」と思えるようになる、というよりそう思うようになってしまう。その時はもうアガることもないだろう。問題はその時にモチベーションを保ち続けることなのだが、多分それはできない相談だ。だからアガりながら恐れながら続けていくしかないのだ。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください