知らないものは見えない

先日、茨城県と千葉県の県境付近に集まっている「東国三社」にお参りに行ってきた。東国三社とは「鹿島神宮」「香取神宮」「息栖神社」の3つを指し、大国主大神(おおくにぬしのおおかみ:いわゆる大黒様)と国譲りの協議がまとまったあと3人が揃って出雲の国からこの地にやってきたと言われている。鹿島神宮の参道は今ではちょっと寂しい風情になっているが香取神宮、鹿島神宮、息栖神社とも静かで落ち着く杜に抱かれている素晴らしいお社だ。

ところで茨城県には鹿島アントラーズというJリーグのサッカーチームがある。1993年にリーグが発足した当初からのチームでその前身は茨城県鹿嶋市にあった住友金属工業のサッカー部だ。

ボクはサッカーにもプロ野球にもまったく思い入れがないのだが鹿嶋のサッカーチームにだけはちょっと思い出がある。Jリーグが発足するときに前身の住友金属工業サッカークラブに営業に行ったことがあるのだ。当時職場があった新横浜から途中特急電車に乗ってはるばると鹿嶋市まで日帰り出張をした。ご存知のかたもいると思うがJRの鹿嶋神宮駅というのは小さな駅で駅前にもほとんど人通りがない。電話でアポイントを取ったときにこちらが営業に行くのに先方から「駅まで来るまで迎えに行きます」と言われ恐縮したのだが、こんなタクシーすらいない駅だとは思わなかったので変に納得したことを覚えている。

当時ボクは新横浜に建設中だった新横浜プリンスホテルの設立準備室にいた。同時に新横浜には巨大なスタジアムが建設中でJリーグが発足すれば全国からJリーグのサッカーチームがやって来ることになっていた。そのため新しくできるホテルをJリーグのサッカー選手の宿泊場所として売り込もうとしていたのだった。おかげさまで日本各地のJリーグチームと契約することができたのだが何故かボクはJリーグの試合を一度も生で見たことがないまま今に至っている。

鹿島アントラーズの話に戻そう。彼らのチームの旗には鹿がデザインされている。調べてみると”Antler”は英語で「鹿の角」のことを指すらしい。普通に考えれば「鹿嶋」だから「鹿」をモチーフにしたのだろうと思うところだが、ボクは以前、奈良の春日大社にお詣りしたときこんな話を聞いた。春日大社に祀られている4人の御祭神の一人がその昔、鹿島神宮から奈良に迎えられ、そのときに迎えられた「武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)」は鹿嶋から神鹿に乗って春日山に降り立ったのだという。鹿は神の遣いであり現在も奈良公園や香取神宮、鹿島神宮でも目にすることができる。

だから鹿嶋市の街角に張り出されたアントラーズの試合のポスターに描かれたアントラーズのフラッグを目にした途端にボクはピンときた。鹿島アントラーズは神鹿にあやかっているのだと。もちろん雄鹿の立派な角は勇ましい。しかし彼らがフラッグに込めた思いは単なる強さだけではないことを。

Jリーグが発足する時にはあちこちのサッカーチームを行脚した。

鹿島アントラーズ(住友金属工業)
柏レイソル(JR東日本古川)
浦和レッズ(三菱自動車)
ヴェルディ川崎(読売クラブ)
横浜マリノス(日産自動車)
横浜フリューゲルス(全日空・佐藤工業)
清水エスパルス(市民球団)
名古屋グランパスエイト(トヨタ自動車)
ガンバ大阪(松下電器)
サンフレッチェ広島(マツダ)

日本のそうそうたる大会社ばかりでどこに行ってもちょっと小バカにされたような対応だったが、鹿嶋だけは違った。本当に丁寧で「わざわざこんなところまでお越しくださって…」という心遣いに溢れていた。おまけにお昼に高そうな松花堂弁当までごちそうになってしまった。こちらは一介の営業なのにである。だからといってサッカーが好きになったりはしなかったが「鹿島アントラーズはいいチームだ」という印象だけは今でも持ち続けているのである。「男の心を掴むには胃袋から」というのはあながち間違いではない。

今回、鹿嶋神宮に行ってたまたま街角の食堂の窓に貼られていた興味もないサッカーのポスターに興味を持つことができたのは、かつて営業で訪れた住友金属工業サッカー部の担当者の振る舞いや奈良の春日大社で知った鹿島神宮との繋がり、神鹿のことなどが一気に繋がってボクの頭の中でアドレナリンが吹き出したというわけだ。

全く興味もなく考えてもいなかったことがひょんなことから繋がることがある。何に対しても興味を持たずボーッと通り過ぎてしまえばそれっきりだったかも知れない。しかし今回はたまたま興味を引き出すきっかけに触れ合うことができた。以前にも書いたが「知らないものは見えない」のだ。だから常に興味のアンテナを張り巡らしてそこにある事実を見てキャッチすることが大切だ。いや逆にそうしていなければ面白いことも見逃してしまう。

Jリーグにはいつの間にかベルマーレ平塚というのもできていた。うちのすぐ近所のスタジアムでも試合をしている。先日はJリーグ杯という大会で優勝したらしい。最近は「湘南ベルマーレ」という名前で頑張っている(ようだ)。ベル・マーレはイタリア語で「美しい海」という意味だ。湘南にはそれくらいしか売り物がないからしかたないのだろうか。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください