『昔ながらのやり方』の
いいところ悪いところ

最近は大工場で生産される高品質で均一な製品とは別に小さな工房や町工場、地方の商店などで細々と生産されてきた小規模で凸凹の言ってみれば人間味のある製品が注目を浴びている。今の日本で大量生産される製品はおしなべて誰にとっても便利で仕上げもきれいで不良品もほとんどなく安くて付加価値の高いものだ。日本人は昭和の高度成長時代以降、そんな暮らしを享受し慣らされてきた。あまりにも便利で至れり尽くせりの製品に囲まれて我々は自分で何かを考える力が弱くなってきたように思う。便利な生活はいつも誰かが考えて提供してくれるのだから。

焼き物であれ酒であれチーズであれ醤油であれ味噌であれ、今の日本ではほとんどのものは大メーカーが大量生産したものが街中にあふれている。その中で小さなメーカーが最新の設備を導入することなく小規模にコツコツと昔からの製品を昔のやり方のまま作り続けてきたところがある。ほとんどのメーカーが大企業に駆逐されて廃業していく中、小さいながらも生き残り今になって少しずつ光を浴び始めたのはなぜなんだろうか?

人は楽で儲かるやり方があればそちらへなびきがちだ。誰でも楽して儲かったほうがいいと思っている。しかし中には仕事を”生活するための手段”ではなく”好きなこと”や”やりたいこと”として続けている人達がいる。効率よく稼ぐことよりも自分が一番好きな形に仕上げることや数は少なくても自分の作ったものが”好きだ”と言ってくれる人の笑顔のために働く人達がいる。他人から「もっとラクに稼げる方法があるのに」と言われても「そーじゃねーんだ」と言って自分の好きなことをやり続ける。

たぶん「好きだ」と言ってくれる人が急に増えたわけではない。ただ今の日本人は自分自身が画一的な生活に取り込まれてしまっている分、メインストリートからちょっと外れた非効率的なものに憧れを持つようになってきた。それは普段の自分にはできない暮らしであり許されない主張だからかも知れない。

中学校を卒業すればほとんどの若者は高校へ進学する。中卒で仕事をしようとすれば周りの大人から「高校くらいは行ったほうが」と反対される。事務書類をそろばんで計算し手書きで書いていればWordやExcelを使うように命令される。もちろん新しいやり方のほうが効率的でみんなが幸せになれることはたくさんある。書類を手書きして読みにくく間違った報告書を作られるよりせめてワープロで読みやすいものを作ったほうがみんなの仕事は何倍も早く楽になる。つまり言いたいのは「昔ながらのやり方を続けることの意義は何なのか」ということだ。

ヨーロッパのワインやチーズ、イタリア・ナポリのピッツァ、オリーブオイルなどには古くから原材料の生産方法から加工の仕方、保存方法に至るまで一つ一つが法律で細かく定められていてそれ以外の方法で作られたものは規格外品として認証を受けることができない。こういったシステムを取り入れることによって古くからのやり方が受け継がれて伝統が守られてきた。というのは一面だ。

かつてはそれぞれの農家に違ったやり方があったものをある時点で規格を統一して法律を作ったわけだ。その時自分の家に伝わってきた「古くからのやり方」を放棄した人たちもいたはずだ。しかし国家としての戦略の中ではやり方を統一して規格を揃えて高品質な商品を作ることを優先したのだ。結果的にそれが国としての農業を強くすることになった。それでも農業分野では産地によって様々な特徴が残り豊かな産業資源として今でも人々を潤している。

「今でも昔ながらのやり方をしてます」と自慢気に話す工場長がいる。そこにあるいいところと悪いところを見極めてある部分では昔ながらのやり方を続け、ある部分では新しいやり方も取り入れている。醤油の仕込みには昔ながらの木の樽を使っていても瓶詰めされた製品を川船を使って東京に運んだりはしない。トラックで高速道路を通って出荷される。それは野菜だって鮮魚だって同じことだ。トラックや鉄道で早く運んだほうが新鮮で美味しいものを届けられる。だからそこは”昔ながらのやり方”をしない。

「昔ながらのやり方」には一見非効率のように見えてもいいこともある。ひとつひとつに手を抜かない、ひとつひとつに細かく気を配る、ひとつひとつを丁寧に作るなどなど、大量生産すれば10万個も100万個も一気に作れるものを細かく目を配りながらちょっとした違いにも妥協しないで完璧に近いものを作り上げようとする。

もっとも「昔ながらのやり方」をしていれば、いい加減な人がやればガサツで不均一な製品ができてしまうし大量生産ができないので単価が高くなる。いいことばかりではない。しかし人形の顔を優れた職人が手描きしていれば一つ一つに変わった表情が描かれるから、人の顔にそれぞれ違いがあるように趣のあるものが出来上がることもある。大切なのは”手抜きをしないで”同じことをコツコツと続けることであり他人がズルをしてもバカ正直に自分のやり方を守ることだ。そして効率よりも大切なものを見つけることにある。

何が何でも昔のやり方だけがいいわけではない。肝心なのは自分が好きでいられるいいものを愛でる気持ちなのだと思っている。

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