包丁の切れ味

家で砥石を使って包丁を研いでいる人はどれくらいいるだろうか。ホームセンターなどに行けば丸いローラー状の砥石のついたワンタッチ包丁研ぎだっていくらでも売っているのでそういったものを使っている方もいるだろう。包丁の切れ味といえば包丁を研ぐことばかりに意識がいくが、まな板の上で包丁を使うのであればまな板の方にも少しは気を使わなければ片手落ちである。なぜなら包丁はまな板と対になって切れ味を発揮するのだから。

家庭の包丁でも家で3ヶ月も使えば切れ味は徐々に落ちてくる。トマトを切ってみて切れ味を確かめるのは一般的なやり方だ。手の爪に包丁の刃を軽く当ててみて刃が左右にブレないかどうかでも切れ味をみることができる。

我が家には砥石があるので時々研いでいるのだが最初はなかなかうまく研げなかった。砥石と包丁の角度やら力の入れ方、研ぐときの手の動かし方など、ある程度思った通りの切れ味になるまでに数年はかかった。砥石に付いていた取扱説明書やインターネットでも散々調べたが、今にしてみればどれもいい加減なことばかりだった。

ある時、開店してまだ早い時間に料理屋のカウンターで飲んでいた。カウンターの奥では料理人が今まさに包丁を研がんとしていた。プロはどういう研ぎ方をするのだろうとチラチラと盗み見るようにしていたのだが、その料理人は水に浸けてあった砥石を取り出すといきなりもう一つの砥石と擦り合わせ始めた。はて?と思ってその瞬間に気づいた。砥石を研いでいるのである。

ご存知の通り砥石は文字通り”石”である。石は硬いが研ぐときに金属の包丁を押し当てて擦って入れば砥石だって削れてくる。削れれば砥石の真ん中は凹んでしまう。砥石は平らだからこそ思い通りに包丁を研ぐことができる。だから最初に砥石を研いで平らにしていたのだ。

ボクは家に帰るとその時見たように砥石同士を擦り合わせて砥石を研いでみた。それから改めて研いだ包丁は嘘のように切れ味が戻った。曲がったもので研げば包丁の刃も真っ直ぐには研げない。当たり前のことに気づかなかった。

同じことはまな板にも言える。包丁の刃がいくらまっすぐに研げていてもそれを受けるまな板がガタガタでは切れるものも切れない。包丁の刃はまっすぐなまな板にまっすぐ当たってこそその切れ味を発揮する。もっともうちのまな板は樹脂製の安物なので削ることはできない。もったいないが新しいものを買ってくるしかない。昔、家にあったような木のまな板なら職人に削り直してもらうことができたのかもしれないが、今となってはそんな職人さえ少なくなっているのだろう。

何であれ道具というものは手入れが肝心だ。ナイフでもレンチでも使いっぱなしにすれば錆びて使い物にならなくなる。使った後に布で汚れを拭って油をさしておけば次に使おうと思った時にも気持ちよくその性能を発揮してくれる。

自分でものを直したりしない人は道具の価値もわからない。道具の価値がわからないから道具を上手に使うことができない。包丁を研ぐことも大切だがまな板も平らでなければ包丁の切れ味は台無しになる。何から何まで人任せにするのではなく、道具をうまく使いこなす道理がわかって初めていい仕事ができるような気がする。

もっともボクが包丁を研ぐのは何も考えずに心穏やかになれるからなのだが。

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