保険貧乏

以前に、知り合いの女性が親族から数百億円の遺産を相続した話を書いた。彼女は普段から車の運転もしていたが自賠責以外の自動車保険には入っていなかった。その訳を訊いたらあっけらかんと「だって払えるもん」と言った。お金があるから保険になどはいらなくても自分のお金で払えるというわけだ。それ以来保険というものは貧乏人にこそ必要であり、そして貧乏人からお金を巻き上げる最高の仕組みなんだという気持ちを忘れられないでいる。

もちろんボクは貧乏人に分類されるので生命保険やら火災保険やら自動車保険に加入している。年間に支払う保険料は数十万円である。つまり10年間に支払う保険料は数百万円であり保険が満期になるまでには恐らく1000万円以上を支払うことになる。生命保険はいくばくかのお金が戻ってくるが基本的には赤字である。アタリマエだ。保険会社はそこで集めたお金の運用益や手数料で儲けているのだから。

言ってみれば私たちは保険会社から「安心」を買っているわけだ。その代償に保険料を支払っている。誰が考えたのか江戸時代の頃から「講」という名前で相互扶助の保険制度が始まったと聞いたことがある。お金がなければ急な出費に耐えられないから困った時にはお互いに助け合いましょうということだ。悪い発想ではないと思う。

保険に入ろうかと迷うのは誰もが”不安”を感じたときだ。もしも事故ったら、もしも火事になったら、もしも地震が来たら、もしも急に死んだらどうしようと思ったときに保険を考える。保険はリスクマネジメントの一つで「リスクの移転」にあたる。リスクが現実のものになった時、その損害を他に移してしまおうということだ。火災保険や地震保険は実際にそれらが起こって損害を被ったときに保険会社から損害を受けた分のお金をもらってチャラにしようとする。生命保険は自分が死んだときに残された人にお金を残して…、どうしようというのだろう。自分が死んでしまえばそれまでなのだから自分自身のリスクマネジメントにはならない。家や家族としてのリスクマネジメントだ。

先日テレビを見ていたら「保険の契約条件に注意!」という番組をやっていた。しばらく前から生命保険などには「がん特約」や「成人病特約」などの名前で「癌や糖尿病になった時には治療費や入院費をもらえます」というオプションを有料で付けられることが多い。しかしその契約書を虫メガネでよく見てみると「30日以上入院した場合だけ31日目分から支給」などと書かれていることが多いのだという。最近の病院で1ヶ月以上入院することなどほとんどない。せいぜい数日で退院する。その場合は保険料は一切支払われない。これはいわゆる「不払い」ではない。そういう契約になっているだけだ。結局のところ契約者の思惑通り(思い込んでいたとおり)に保険金がもらえるケースは全体の半分程度だという内容だった。

保険会社は不安を煽って保険に加入させるが高い保険料を支払う割に我々にリターンはほとんどない。数年前にボクの友人が心臓発作で急死した。彼の父上は彼が若い頃に50代で癌で亡くなっている。そのせいか自分も癌になると思ってがん保険には入っていたらしい。ところが心臓発作で亡くなってしまった。保険は支払われなかった。また彼は数十年前に一戸建ての自宅を買った。住宅ローンを組む時には万一のときのためにローン会社が強制的に生命保険に加入させる。しかし彼は数年前に前職を退職した際の退職金で残りのローンをすべて支払っていた。ここでも保険は何の役にも立たなかった。

ほとんどの人は普通に生活している中で交通事故を起こしたり火事に遭うことはまずない。しかし万一のことを考えて”やっぱり”保険に入る。恐らく人が一生のうちに支払う保険料は何かあったときにもらえるはずの保険金よりも遥かに多いはずだ。しかもその”何か”はめったに起こらない。でも安心のために保険料を払い続ける。

保険の専門家やファイナンシャルプランナーは保険だけが専門であって医療の専門家ではない。彼らはおカネのことしか考えない。だから「病気で入院するなら保険のことを考えて月初めに入院しなければ損です」などと言う。いやいや、病気なら、特にそれが癌だったりすれば早期治療が鉄則だ。1ヶ月も待っているべきではない。医療関係者は「患者全員がまとめて月初にやって来られたら医療現場は崩壊します」という。しかし彼らはあくまで「おカネの専門家」なのだ。専門家は自分の「専門」があるから専門家であり専門以外のことは何も知らない。専門家が何でも知っているわけではない。

今までに払った保険料を貯金しておいたらいくらになったのだろうと思うことはあるが、出来もしないことをさかのぼって考えたとことで何にもならない。そんなことを思いながらもボクは毎月せっせと保険料を支払っている。保険貧乏なのではない。貧乏だから保険に入るのだ。世の中、なかなか思い通りにはいかない。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください