マニュアルの威力

ある日、急に天丼が食べたくなった。天丼といえばそば屋だろうか。どういうわけかカツ丼や親子丼、天丼はそば屋で提供される。もちろん天ぷら屋でも天丼を出す店はあるが一般的には日本そば屋に行った方が安く手軽に食べられる。

我が家の近所にもそば屋はあるがちょっと小洒落たその店では日本そばの付け合わせ程度の小さな天丼しかメニューに載っていない。そんな時に思い出したのが天丼のチェーン店だ。牛丼にチェーン店があるようにカツ丼や天丼にもチェーン店がある。かつてサラリーマン時代にずいぶん通ったそのチェーン店を思い出してネットで検索すると比較的近所にもあることがわかって出かけることにした。

そば屋でカツ丼や天丼を食べると1,000円近くはするものだ。だから学生時代には玉子丼や親子丼がせいぜいで天丼カツ丼には手が出せなかった。しかしその天丼チェーンでは天丼(並)が500円である。もちろん具材が天ぷら屋のそれと違うのは当然だが、ほんの少し待った後でテーブルに置かれたそれはまさに「天丼」そのものだった。

店の従業員はキッチンで調理する女性が二人とホールで料理を出す女性二人の合計4人だ。おそらく主婦と思われるパート従業員は注文を受けるとそれをキッチンに伝え、あれよあれよという間に料理が出来上がる。これを自分の家でやろうと思ってもこうは手際よくできるものではないし実際に店で作っている彼女たちにしても同じだろう。

天丼を作る手順を標準化して必要な材料と加工方法、盛り付けを決める。下ごしらえした材料を全て手元に揃えて一気に調理して盛り付ける。前もって作って温めてあった丼ツユをかければ完成だ。その間ほんの2〜3分。マニュアル(最低限の基準)を作ってシステム化しなければ短期間に短時間でそこまではできない。贅沢を言えばキリがないがほんの500円で数分で提供される料理としては十分なクオリティである。パートの主婦であれ学生のバイトであれ、素早くそこそこの味の天丼を客に出せるようになる仕組みはマニュアルならではだ。

でもマニュアルを作るということはクオリティの天井を決めるということである。やることは決まっておりその作業を端折ることはもちろん別な作業を付け加えることも許されない。特にチェーン店では店ごとのバラツキをなくすためにどうしても必要な決まりである。

マニュアル化するということは短期間で一定の水準のサービスを提供するために非常に強力なやり方だ。しかし一定水準以上のものを提供しようとすればそれは一挙に複雑で高度な経験が必要になる。サービスのレベルは最初に決めているのでそれ以上のものを作ることはできない。つまり一人一人の個人が工夫しようとする権限を奪っていることにもなるのだ。

しかし何れにしても経営の目的を間違えなければマニュアル化が強力な武器であることに変わりはない。

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