虫が嫌いな人

最近のマンションなどでは部屋の中に虫が入ってくることがめっきり少なくなったが、かつては家の中で虫を見かけることなど日常茶飯事だった。特にアルミサッシでもない木造の家などではゴキブリは言うに及ばずムカデ、蜘蛛、コオロギなど様々な虫が家の中にいた。バッタが嫌いだ、チョウチョウが苦手、毛虫が嫌などと好みは様々だし虫以外にもヘビやトカゲなどの爬虫類が嫌だという人もいるし犬猫がダメだという人もいて人の好みは様々だ。

もっとも蚊は今でも普通に見られる。特に苦手というわけではないが刺されるとかゆいので好きになれない。夜、明かりの周りに集まる蛾の仲間もチョロチョロと落ち着かないので好きではない。インドネシアに行くようになって好みが変わったのだがそんな蛾を食べてくれるヤモリが好きになった。日本で見られるヤモリは一般に小さなトカゲくらいの大きさのものが多いが、インドネシアに行くと30センチほどもあるヤモリが天井の梁に何食わぬ顔をして張り付いている。人に危害を加えることはないが時々興奮して「ビタンっ!」と音を立てて床に落ちてきてビックリすることがある。

子供の頃、草むらに入って何かの虫に刺されたといって大人になっても虫が苦手だという人がいる。トラウマというのだろうか。最近の流行りで言えばPTSDとでも言うのだろう。かくいうボク自身も小学生の頃に近所の草むらに分け入って遊んでいたところアシナガバチに襲われて痛い目にあった。家に帰ってからこっそりとキンカン(虫刺されのぬり薬)など塗っているところを親に見つかり「バカだねぇ、ボケッとしてるからだよ」などとバカにされた記憶がある。

「心的外傷後ストレス障害 (Post Traumatic Stress Disorder)」英語の頭文字をとってPTSDである。自分の命にかかわるような体験などによって精神的・身体的な苦痛やストレスなどで生活機能に不都合をきたすようなストレス障害だ。暴行やイジメ、虐待を受けたりすることで発症することもある。最近では地震や台風、津波、土砂崩れなどの大災害の後で「子どもたちの心のケアが…」という声を聞くことが多い。その他にも殺人事件や海外での銃の乱射事件の際に耳にすることもあるがその対象は総じて子供だけである。まぁ言葉は良くないが「大人ならそれくらいのことは自分で解決しろよ」ということなのだろう。それももっともな意見だ。

しかし最近ではそんなに大きな事件事故でなくても「心のケア」が出てくる。しかし「何から何まで子供には心のケアが必要だ」という考えにはあまり納得できない。学校の遠足で郊外の道路を歩いていてハチに襲われたとする。長い人生を生きていればそんなことは何度でも起こることだ。そんなときにもマスコミは「夢に出てきて眠れない」という子供のインタビューを取り上げて「心のケアが必要だ」という。そんなことで眠れないのなら寝なければいいと思う。人間そのうちに眠くなって寝るものだ。誰にでもあることだ。大人が騒ぎすぎる。大騒ぎしないで放っておけばいい。そのうちに子供は自分なりに心に折り合いを付ける方法を学ぶ。大人が子供に関わりすぎるから大人になっても乳離れできない子供ばかりが増えるのだ。

ボクたちの祖父や両親の世代は子供や若い頃に戦争や戦後の食糧難を体験している。空襲や原爆で真っ黒に焼け焦げた死体や皮膚が火傷でズルムケになってもがき苦しみながら死んでいった人間を目の前で見た子供も多い。うちの親父もそんな子供の一人だった。そんな彼らに”心のケア”はあったのだろうか。終戦直後の満州(現在の中国・東北部)でいきなり家に押し入ってきたソ連兵に目の前で両親を撃ち殺され乱暴された子供の話をボクも子供の頃に親父から聞かされた。そのときに「ここに日本人はいない」と言ってかくまってくれた中国人には感謝しても感謝しきれないとも言っていた。戦後何十年経った後でもそんな話をしていた当時の子供達にきっと”心のケア”などなかったのだ。

「嫌なことは忘れてこれからは前向きに生きよう!」と思うのは悪いことではない。しかし嫌なこと悲惨なことは全て忘れてしまえばいいのだろうか。軍隊に招集されて「人を殺せ」と命令されて人を殺してしまって今も心に大きな苦しみを抱えている人がいる。普通の神経の人は正常でいられなくなる。死んでしまいたいと思う人もいる。しかし「あのときは仕方なかったんだ」と忘れてしまえばそれでいいのだろうか。「あんなことは二度とやっちゃいけないんだ」と押し殺すような声を絞り出して訴える人がいる。あの経験がどうしても忘れられないから苦しんで訴えている。我々はその声を受け止めて行動しなければいけない。そうしなければ先人たちは苦しみの中で人生を終えることになる。

今、本当に心のケアが必要なのはそんな人達なのではないかと暗澹たる気持ちになるのだ。

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