海苔

学生の頃、友達の下宿に行けばホワイトかブラックニッカの水割りだった。バブル景気の前夜、金はなかったが学生の口も肥え始めていてレッドやトリス、スーパーニッカは口に合わなくなっていた。しかしツマミは相変わらずの味付け海苔だった。よっちゃん酢イカが入っているようなでかいプラスチックの容器の赤いフタを開けると安っぽい味付け海苔の臭いが部屋中に広がった。

民宿や旅館の朝食にはたいてい生卵と海苔が付く。民宿では味付け海苔のことが多い。安いからだろう。向こう側が透けそうな薄い海苔では香りなどしないから味をつけて誤魔化すわけだ。安い日本酒を樽酒にするのに似ている。いい酒に樽の臭いなどつけてしまったら台無しなので樽酒には安い酒を使う。樽の臭いで安い酒でもおめでたい気分になれる。

海苔といったら浅草海苔だ。日本橋あたりには江戸時代から続く海苔屋が今でも残っている。もっとも高級海苔店なので鰹節屋と一緒で足を踏み入れたことはない。それでもお茶や海苔の店の前を通るといい香りが漂ってくる。日本人の琴線に触れる香りだと思う。

先日テレビで海苔の特集をやっていた。老舗海苔店の若旦那が海苔の美味しさを一生懸命説いていた。ウチには普段はスーパーで買った安っすい海苔がある。高い海苔は買わない。いやもったいなくて買えない。誰かから貰った時にありがたく頂くだけだ。高い海苔はやっぱり美味い。香りが違う。口触りが違う。美味しい海苔ならちょっと高くても買ってもいいかなと思う。でもすごく高かったら買わない。

実家を出てからはお中元もお歳暮の恩恵もないので滅多に高い海苔を口にすることはない。口にすることはないが「食べたいなぁ」「美味しいんだよなぁ」といつも思っている。海苔屋さんももっと積極的に高級海苔の美味しさがわかる人を増やす努力をすればいいのに、と思う。いいものはわかる人にだけ分かってもらえればいいなんて思っているとビジネスはすぐに衰退してしまう。小分けのパッケージを作るだけでなく海苔の楽しみ方ももっと積極的に発信すればいいのにと思う。

焼き海苔といえば普段はコンビニおにぎりくらいでしか食べていない。コンビニおにぎりの海苔も悪くはないが美味しくもない。比べて高級海苔は別格だ。同じものとは思えないくらいに美味い。
海苔の味はわかる人にはわかってもらえると思う。特に日本人なら分かる人は多いと思う。ただ高級海苔を食べた人がそんなに多くないから知らないだけだと思う。うちでも普段の海苔はスーパーで買ってくる。封を切ったときだけはそれなりに香りが高いがそのまま置いておくと香りも飛んでしまう。この”一気に使い切ることが少ない”ということも海苔の悲劇の一つだ。

少人数や夫婦だけの家族では一度にそんなにたくさん海苔を食べるものではない。最近ではいろいろな保存袋も売られているが時間が経つとやはり湿気って香りも飛んでしまう。これからは海苔を一度に使い切るためのメニューを考えてたまには高級海苔も楽しみたい。