人は変化に注目する

見ているものがパッと変化したり動いたりすればほとんどの人はすぐに気がつく。それは敵から身を守るために生まれついて備わった本能だ。
ところがじっと見ていても少しずつ変化するものには意外に鈍感である。時々テレビのクイズ番組の中で1枚の絵や写真がゆっくりと変化していくのをずっと見て変化した部分を答えるという問題がある。最初と最後の絵を比べると誰もが判るような多くな変化が起こっているのにほとんどの人が答えられない。変化する部分がゆっくりだと人間は気づかないことが多い。自分で見ていても驚くほどわからない。
結果的に絵は大きく変わっているので最後にはみんながびっくりするが仮にこの変化が少しだったら誰も驚かないだろう。「こんなところがちょっと変わったくらいじゃねぇ」などと言われてしまうのが関の山だ。

少しずつ変化していくものをわかりやすく見せるのに使われるのがタイムラプスの写真(1時間に1回シャッターを切るような超微速度撮影のこと)のような手法だ。時間を短縮して変化を早くして見せるのでゆっくりとした一見止まっているような光景が動いて見えるようになる。例えば天気予報の雲の衛星写真などがそれである。気象衛星から10分に一度撮影した写真をパラパラ漫画のように見せると上空からでは動きの遅い雲があたかも生き物のように動いて見えるようになる。

ゆっくり変化しているのは絵や写真だけではない。
地球温暖化が騒がれてからもうずいぶんになる。猛暑が来たり各地で豪雨被害が出ると地球温暖化が話題に上るが実際の平均した温度変化はごく僅かである。ごく僅かだが確実に上昇している。その変化は100年で1.2℃程度だ。しかしこの30年間ほどの上昇率は急激である。この平均気温の変化というのは単に「熊谷の最高気温が観測史上最高を記録した」ということとはわけが違う。一説では地球の平均気温が1℃上昇するごとに海面は2m上昇すると言われ、首都圏や大阪圏では海水面が1m上昇するだけでその主要部分が水没する可能性も指摘されている。

平均気温の推移

というようなデータも数十年単位のゆっくりとした変化に過ぎないが大規模な災害や生活の変化につながることがおわかりいただけると思う。
最近日本でも頻発している豪雨や猛暑、冬の豪雪などと温暖化の直接的な因果関係はまだわかっていないが、この夏は猛暑だ、去年の冬は豪雪だったなどという近視眼的な目の前の変化だけに固執していると物凄く大きな変化に気づかなくなるということなのだ。

ただこういったデータを集めるには同じ条件のもとで長期間に渡って定点観測を続けることが不可欠だ。長い時間をかけて変化していくのだから当然なのだが、その中でどのデータの変化を記録すればいいのかは直感のようなものである。温暖化についてはたまたま気温のデータで気象庁にも記録が残っていたが、これが毎年のアブラゼミが鳴いている声の大きさなどというデータの変化を見ようと思えば途方に暮れてしまう。仮に毎年のセミの鳴き声の大きさを同じ条件で記録できるとしてもそれが一体何の役に立つのかが分からなければ誰も記録しようとさえ思わない。

そのデータの変化になにかの意味があると考えた人だけがデータを集める。そのごく僅かな変化から読み解ける大きな変化の兆候を想像することがビジネスに於いても大きな力となる。