冷やし中華の夏

ボクは冷やし中華が大好きだ。夏といえば冷やし中華だ。全く中華料理とは関係ないらしいがそんなことは関係ない。夏になると、あの甘酸っぱい醤油味や胡麻風味のドロッとしたバンバンジー風のタレがかかったチープな麺料理をいてもたってもいられず体が欲するのだ。ボクはざる蕎麦も好きだ。「神田藪」だの「雷門藪」だのと贅沢は言わない。いや藪そばも好きなのだが毎日食べられるものでもないので家で乾麺を茹でて作っている。
以前、勤め先が五反田にあった時には職場の近所に旨い立ち食いそばの店があって2日に1度は通っていた。蕎麦の香りがどうのとウンチクはたれない。ざる蕎麦ならどんなものを出されても大抵は満足する。冷たい蕎麦をわさびと刻みネギをドサッと入れたつゆにどっぷりと浸けてすすり上げると「日本人に生まれてよかったな」と心の底から感じる。

日本にはざるそばやざるうどん、冷やし中華、そうめん、冷麺、冷製パスタなど冷たい麺はいくらでもある。そしてそのどれもがボクの好物だ。結局のところボクは麺料理が好きで中でも冷たい麺料理が大好きだというそれだけのことだと思う。

先日、TV番組の中で言っていたが、外国には冷たい麺料理がほとんどないらしい。外国で冷たい料理を出されたら”誠意のかけらもない冷めた料理”だと思われるらしい。だからイタリアにも冷製パスタはないという。しかし日本に来て冷製パスタを食べたイタリア人は「美味い!」とビックリしていた。
そう聞くと冷たい麺料理というのは日本独自の特殊な食べ物なのではないかと思った。

日本以外の国ではアジア圏はもとより欧米でも水道水をそのまま飲める国は少ない。やかんに汲んで一度沸騰させてから飲むか、店でミネラルウォーターを買ってくるのが一般的だ。つまり飲み水が高いのだ。もちろん海外でもシャワーや洗濯では水道水を使うし食器の洗い物にも水道水を使うが、食器は最後に水道水で熱湯消毒することもあるらしい。

海外に住む外国人が言うには、冷たい麺はいいけど「麺を冷やす水はどうするんですか?」というのだ。これは盲点だった。生まれてこの方ずっと日本に住んでいると蛇口から出てくる水は常に飲めるし麺だって冷やせる。だから寝耳に水だった。そりゃそうだ、冷やす水がなければ冷たい麺は普及するはずがない。日本では古くから井戸水も飲用していた。最近では井戸自体がすっかり姿を消してしまった上にピロリ菌に感染する可能性を指摘されているので飲料水として使っている家は少なくなった。でも登山やハイキングに行けば湧き水を飲むことだってできる。水が豊かな日本だからできた料理だったわけだ。これはもっとも日本らしい料理なのではないだろうか。

いつだったか西伊豆に行った時、友人に「冷やしラーメンが旨い店がある」と言われて一度食べたことがあった。しかしそれは”冷やしていない”ただの冷めたラーメンだった。不味いとは思わなかったが少なくとも美味しくはなかった。まるで誠意のないラーメンに見えた。
冷やし中華やざる蕎麦は別にキンキンに冷えていなくてもいいが、ぬるいのはあまり美味しいと思わない。やはり水で冷やした冷たい麺がいい。

味なんてすべてが個人の好みなのでどうでもいい人にはどうでもいいことだけど、誰が何と言おうとボクの夏には冷やし中華が欠かせないのだ。