ゴロツキ

中華のファミリーレストランでランチを食べていると隣のテーブルに中年女性の3人組がやってきた。メニューを見ながら注文を済ませるとしばらくして料理が運ばれてきた。何を頼んだのかはよくわからないがその中の一人が何やら店員に苦情を言い始めた。どうやら頼んだサラダの盛り付けにサニーレタスが少なく、ほとんどが普通のレタスだと言っている。耳をそばだてて聞いてみると文句を言っている中年女性客は「写真と違うと言っているわけじゃないの」「でも普通はもっとサニーレタスが多いものよ」というのだ。ちょっと吹き出しそうになった。その”普通”はあなたにとっての普通であって世間一般には別の基準がある場合もある。

さらに別の店員を呼びつけて話し続けている。

「虫が入っていたとかそういうことではないの」
「食べられないほど品質に問題があるわけではないの」

と言いながら

「見た目が悪いから作り直してくださいと言ってるんですけど」

と穏やかに要求している。ははぁ、さてはゴロツキだなと思った。
最近はクレーマーなどという言い方もされるがつまり昔のヤクザみたいなものである。何にでもケチを付けて値切ったりあわよくばタダで飲み食いしようという輩だ。このテの人間はどこのレストランにもたまにやって来る。”見た目がいいか悪いか”にははっきりとした一線が引かれているわけではないから、店によっては「お客がそう言うならいう事聞いてやれ」という対応をしてしまう店主もいる。

3人組の中で年長と思われるその女性の口調は終始丁寧で穏やかだ。怒鳴ったりすることはない。店員の前で大声で威張って自分の威厳を見せようということもない。ただ静かにワガママを言って店に不当な要求を飲ませようとしている。相当に慣れている。
怒りに任せていないのだから事は最初から計算ずくなのである。

ここで店が折れてお客の要求を飲めば次からは「この間はやってくれた」と言い始めて始末に負えなくなる。終いには馴染客のような顔をして店に出入りしかねない。
ホテルではこのような客をUG(ユージー)と呼ぶ。Undesirable guestの略で「招かざる客」のことだ。ホテルではフロントをスキップして宿泊料金を踏み倒す常習犯などをこのように呼ぶ。業界内ではこうした客の情報は業界内で共有されているので、やがてはどこに行っても「お尋ね者」になってしまう。

しかし店員が接客に慣れていない頃はお客と揉めないようにすることで頭が一杯になって、このような理不尽なお客の要求にも折れてしまうことがある。そんな時にはすぐに店長やマネージャー、支配人に報告して接客を代わってもらうことだ。

飲食店や企業にはその店や会社の”サービスレベル”がある。何をどこまで提供するのかという基準だ。際限なくサービスや商品スペックの範囲を広げてしまえば採算割れして商売にならない。だからお客に対して「ウチはここまではやりますよ」と最初に宣言しておくわけだ。飲食店ならメニューや料理の写真などがそれに当たる。それを決めていなければお客に対して多少のワガママも許容せざるを得ない。もっとも普通の日本人なら常識はずれの要求をしてくる人は少ない。

お客のワガママに折れて一人にだけを優遇して特別なサービスを提供することは、他の客との公平さを欠くことになる。文句を言わないお客には低いレベルのサービスしか提供せずワガママを言う客だけが得をするようでは他のお客は納得できない。表立ってそのことに文句を言う人は少ないが、正義を通さない店はやがてお客から信用されなくなる。だから店は安易に妥協してはいけない。

隣のテーブルではオバサンが延々と文句を言い続けている。アルバイト風の店員もさすがに自分の手には負えないと思ったのか店長を呼びに行った。

店長や従業員の知り合いが来ると頼みもしない追加料理を出したり料理を豪勢にして特別サービスしているつもりになっている店がある。しかし隣の席の客がどう思っているか考えないのだろうか。自分の商売を成功に導いてくれているのは圧倒的多数の”知り合いではない”客なのだ。客を差別するような店にいい客は二度と行かなくなる。

しばらくして店長らしき人が出てきてサラリと言った。

「ウチのはいつもこれなんです」
「それならいらないわ」

と女性は注文を取り消した。
何だかカッコの悪いオバサンだなと思った。