他山の石

一昨年の熊本地震の直後、熊本市長が記者会見で申し訳なさそうに「熊本でこんな地震が起こるとは考えてもいませんでした」と話していたのを聞いてボクはかなりビックリした。ご存知の通り日本は太平洋を囲む環太平洋火山帯の一部であり世界的にも地震が多いことで知られている。実際過去に日本では地域が壊滅するような大地震が何度も起きている。

先日、国の防災科学技術研究所が発表した「今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」と題した全国地図だ。

今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率

発生する確率が0のところは無色なのだが日本に無色の場所はない。これはあくまで確率であり予想なのだが、これを見た時にあなたはどう思うだろう。

例えばあなたが太平洋側の関東から四国にかけての沿岸や北海道東部の襟裳岬から根室近郊に住んでいたら「気をつけなければいけないな」と思い何らかの対策を講じるかも知れない。発生確率が25%だからだ。しかし岡山県や島根県の内陸部だとしたらどうだろう。確率は0.1%未満でずっと低くなる。「それならとりあえずは大丈夫だな」と思う人も多いのではないだろうか。

しかしよく見て欲しい。基準日は2010年1月1日で東日本大震災の前である。この地図を見る限りでは仙台周辺に確率の高いところはあるが福島県を含めて東北地方は概ねオレンジから黄色に塗られていて確率は6%未満である。先日の大阪市北部で起きた震度6弱の地震もかろうじて大阪市の高確率エリアからはほんの少しずれている。それでも実際には地震が起きたわけだ。他の地域よりも確率が比較的低いからといって地震が起こらないわけではない。確率は低いかも知れないが起こる時には起こるのである。

先の熊本市長の発言に驚いたのは、一般市民がそう思ってしまうのはある意味では仕方がない。万一のことはなかなか起こらないものだからだ(フクシマでは起きたが)。しかし地域行政の長である市長がそのことを想定していなかったということに驚いたのだ。

最近では阪神淡路大震災以降、各地で地震に対する防災対策が立てられてきた(と思っていた)。実際に関東地方でも首都高速や新幹線、鉄道や道路の橋梁・トンネル、ビルディングなどで大規模な工事が行われ、一般家庭でも耐震工事をしたり家具などが倒れにくくなるような部品を取り付けたりしてきた。

神戸で起きた地震の際は大阪市内での被害は限定的だったが、身近に多くの被災者がいたために地震被害の怖さがある程度自分のものとして感じられたのだろう。関東の場合は今まで50年以上に亘って「そろそろ関東大震災が起きる」だの「東海地震は明日起きても不思議じゃない」と言われ続けているので「次は関東だ」という根拠のない不安で対策をした人も多い。
つまり熊本での地震の発生を想定させるような事態が他の地域では起こっていなかったわけではない。

熊本は「火の国」と呼ばれ世界でも有数のカルデラを持つ阿蘇山や県内や県外に温泉も多い地域であって地震に対する意識も高いものだと思っていた。なぜなら火山と地震を別であるかのように論じる人もいるが、基本的に火山が多いということは地震が起きるものだというのは常識だ。そして過去に大きな地震が起きていないわけでもない。よしんば起きていなかったとしても日本で地震の起きない場所などないという認識を行政に携わる首長が持っていなかったとしたらそれこそが問題なのだ。

何かの災害などの事象が起きた時、そのことを自分のこととして考えられる人はあまりいない。高齢ドライバーが運転を誤ってコンビニや病院に突っ込んだとしてもほとんどの高齢者は「自分には関係ない」と思っている。「自分に限っては事故など起こさない」と思っている。確かに事故を起こす確率は低いだろう。日本で何百万人もの高齢ドライバーが車を運転しているが、実際に重大な事故を起こす人は一握りだ。だからみんな他人事だと思っている。しかし起きる時には起きるのである。0.01%の確率でも1万回、つまり万に一つは起きるのだ

確かに起こる確率が少ないことの対策に全身全霊で取り組んでいては普段の生活すらできない。しかし万が一のことが起きた時に「考えたこともありませんでした」というのでは一般市民としてもあまりにお粗末なことではないだろうか。せめて「もし起きたら」と考えてその時のことを想像するくらいのデリケートさは持っていたいものだ。