「論文」に騙されるな

「〇〇(商品名)は論文でも発表されました」だとか「△△学会に論文が発表されました」というような広告記事を見たことはないだろうか。
論文は主に研究者や博士、大学教授等によって書かれるものだが別に誰が書いても構わない。ただその論文が学術誌などに投稿されてその学術誌の審査員によって価値のあるものだと判断されたときにだけ誌面で発表される。もちろん掲載する価値がなかったり論拠が曖昧だったりすればボツになる。

論文はいわゆる”学説”である。つまり仮説ということだ。論文が発表されたからといってそのことが”事実である”ということにはならない。論文が発表された後に多くの研究者によって実験が行われて「どうやら本当らしい」と認められると”定説”になる。しかし定説は”説”であって誰かがお墨付きを与えたものではない。

今から100年ほど前にアルベルト・アインシュタインという理論物理学者がいた。あの有名な”相対性理論”を発表したアメリカの学者だ。ユダヤ人の子供としてドイツに生まれたこの有名な学者の生い立ちについてはあちこちで語られているのでここで触れることはしないが、「特殊相対論」「一般相対論」「相対性宇宙論」「光の粒子と波動の二重性」など多くの画期的な論文で知られ、古典物理学のアイザック・ニュートンに対して現代物理学の父とも呼ばれている。
ニュートンの提唱した古典力学は、アインシュタインの特殊相対論において異なる物体の相対速度が光の速さに比べて著しく小さく無視できる場合の近似値として用いられている。

そんなアインシュタイン博士だが、実は相対論ではノーベル賞を受けていない。アインシュタインは自ら発表した光量子仮説(光は粒であるという説)に基づく「光電効果」の実証的解明によってのみノーベル賞を受けている。これは中学生くらいの理科の実験でやったと思うが、中を真空にした光電管の中にある羽根車に光を当てることによって羽根車がクルクル回ることで確認できる。アインシュタインは自分の仮説に基づいた理論を実験などによって証明してみせたことによってノーベル賞をもらったのである。

アインシュタインの提唱した理論の多くは彼の死後、多くの学者によって証明されてきた。一般相対論で提唱された「磁場による空間の歪み」は太陽付近を通過する”光が曲がる”ことによって証明されたし、最近では「アインシュタインの最後の宿題」とまで言われていた”重力波”についても数年前に観測によって確認された。しかしノーベル賞はもらっていない。

ノーベル賞は一般に”理論”に対して授与されることはない。一説によれば「理論は仮説」であっていつ覆されないとも限らないからだという。ノーベル賞がお墨付きを与えた理論が間違いだったということになっては都合の悪い人もいるのだろう。
その点、これからの貢献に期待されて授与された人が、その後の世界平和になんら貢献することがなくても剥奪されない、基準が曖昧なノーベル平和賞とは随分と趣が異なっている。

「論文で発表されました」といっても発表された学術誌の格によっても信用度がまったく異なる。世界中にどれほどの数の学会が存在するのかはわからないが、それらの学会誌を見てみると毎号おびただしい数の論文が掲載されている。中には「なんでそうなるの?」とも思える根拠もない論文が堂々と載っている学会誌もある。

「SCIENCE誌」や「NATURE誌」などは世界的に権威があり評価を得ているがそれはその学術誌の審査員の厳格さや社会的な評価による。「この学術誌に載ったのであればある程度信用できる」と思われるわけだ。しかし学会誌のほとんどは名もない権威もない実績もない学会が出版している。中にはカネの力で無理やり作ったような学会も多い。
論文に載ったと言われるとすぐに信じる人がいるが、そんな学術誌に載っただけのことで頭から信用してしまうのはいかがなものだろう。言葉は悪いが半分詐欺のようなものだ。

仮説は考え方の一つだし仮説を唱えるのは悪いことではない。しかしそれを悪用して権威付けをして無意味な、いや場合によっては有害なモノを売りつける悪徳商法は今も昔も世の中に蔓延(はびこ)っている。