目先の利益

目先の目に見える価値だけを考えて付き合う人を決める人がいる。他人に迷惑をかける事より、自分が得をするかどうかしか考えない人がいる。本人がそれでいいと思うのなら勝手だが、ボクはそんな人と付き合うのは願い下げだ。ボクが不快な気分になることに決っているから。不快な気分になれば笑顔が消える。前向きなアイデアが出なくなる。
ボクはそんな人の船に乗って運命を共にしたくない。

NHKでは毎年テーマを変えて「大河ドラマ」を放映している。1963年から放送が始まったというからその歴史はもう55年にもなる。歴史上の人物などに焦点を当ててその生涯を描くのが定番のやり方だ。ある特定の人物に焦点を当てれば当然その人物が育った土地が話題になる。近年では滋賀県や福島県の会津、鹿児島などが脚光を浴びている。
最近は大河ドラマの舞台に取り上げられると地元を訪れる観光客が一気に増えて”大河バブル”の様相を呈するらしい。もっとも大阪や京都などのそもそも観光客が多かったところではさほど目立たないのだろうが。

大河ドラマに取り上げられるとなるともちろんNHKでは大々的にキャンペーンが張られて宣伝されることになるが、民放の地元局はもちろん最近では都会のキー局まで”大河景気”に便乗して特集を組み視聴率アップを狙うらしい。
今年は薩摩の西郷隆盛が主人公なので昨年末頃から鹿児島や奄美地方が各番組に取り上げられてきた。テレビの宣伝効果は一時より大きく衰えたとはいえ、まだまだブームを起こすくらいの力は十分に持っている。関係する地域では急激に観光客が増え、観光収入も大幅に伸びる。悪いことではない。いや地元にとっては願ったり叶ったりの一攫千金のチャンスだ。

20年ほども前の話だが、ボクは仕事の関係で群馬県南東部の両毛地方に住んでいたことがある。群馬県の外れなので隣は栃木県の足利市だ。足利市は古く鎌倉時代から南北朝時代に活躍した足利尊氏や新田義貞のゆかりの地である。ちょうどその頃に放映されていた大河ドラマの主人公は足利尊氏だった。ボクは隣の群馬県太田市に住んでいたのだが、足利市はもちろん太田市内にはドラマ撮影用の大掛かりなセットも組まれて観光客が大型バスで大挙して押し寄せて来た。

群馬県太田市はかつて戦闘機を作っていた中島飛行機があったところで、今は富士重工業(現スバル)や当時は全盛だった三洋電機の工場などがあった他はお正月の都市対抗駅伝の折り返し点として話題になるくらいで、観光地としては話題にもならないところだった。もっとも地元では子供が生まれた時の名付け寺として有名な呑龍(どんりゅう)さまがあり、関東平野の北の端の山にあって夜景ポイントとして地域限定で人気があった。

しかしその一年だけは違った。国道沿いにあった数少ないドライブインは休日平日に限らず観光客で溢れかえり、足利学校や撮影セットを訪れた人たちで世紀の賑わいになった。そしてこの勢いに乗って町おこしをしようと地元ではにわかにお土産品などを作って売り出したりしたようだ。

ところが翌年になると再び様相は一変する。あれ程押し寄せた観光客は1年後には誰も来なくなった。にわかに拡張したドライブインにも閑古鳥が鳴いた。あっという間に2年前の街に戻ってしまった。田んぼを埋め立てて作ったドライブインの駐車場にはプレハブのカラオケボックスが建ち、地元高校生の憩いの場にはなったのだが。

大河ドラマではないが、群馬県には数年前に世界遺産に認定された富岡製糸場もある。ここも認定された当時は観光バスが押し寄せたというが今では観光客も激減しているらしい。
また10年ほど前にこちらも世界遺産に認定された島根県の石見銀山がある。ボクは認定される10年ほども前に一度訪れたことがあるが、鄙びたいい街だった。今はどうなっているのだろうか。大きなお世話と言われればそれまでだが世界遺産に認定された時から観光地としての行く末を心配している。

何かで話題になると地元は町おこしのチャンスとばかりに大掛かりなキャンペーンを行う。しかし町がやるキャンペーンとはまったく別のところでブームになっているだけの人気は、ブームが去れば元に戻る。
確かに一時的にはブームに乗って大きな収入を得られただろう。しかしその地で暮らす地元の人達はそんな一過性のブームだけを求めていたのだろうか。今だけブームに乗れれば後はどうなってもいいと思っていたのだろうか。そんな訳はない。

とりわけ次第に人口が減少し近い将来、地域としての存続が危ぶまれる状況にあるところが「今だけ良ければいい」などと思うはずがないのだ。ところがマスコミや大手広告代理店はその場しのぎのやり方で地方都市をメチャメチャにしてしまう。彼らはその時だけ儲けられればいいと思っている。そこが終われば次の獲物を探せばいいのだから。しかし地元に根ざす人たちは違う。これからもずっとその地で平和に暮らしたいと思う人達がいるのだから。

NHKは大河の視聴率を取ろうとして今、放映している大河ドラマの舞台ばかりを取り上げる。それが終われば次に行くだけだ。そんなやり方で地元を食い物にしていていいのだろうか。
大河ドラマに55年の歴史があるのなら今までの大河ドラマの舞台を振り返る企画の一つくらいを取り上げてもバチは当たらないと思う。それは当時、ドラマづくりに協力してくれた地域への恩返しであるとともに、視聴者に対する啓蒙にもなる。なぜなら、かつてドラマで描いた悠久の歴史が数10年で色褪せてしまうことなどないのだから。「アノ頃狂乱した彼の地も、今ならゆっくり見て回れます」と紹介すればいい。しかしそれに乗ってくる賢明な視聴者がどれくらい残っているのかは、これは私たちの問題だ。

目先の利益だけを求めて顧みない人はいつか必ず破綻する。人間は習性としての社会性を持つ生き物だ。ひとりでは生きられない生き物だ。他の人からの信用を得られない人は永続的に成功はしない。
自分”だけ”が得をすることは他人を陥れていることに他ならない。
それでも自分のことしか考えない人はいる。時には世界の超大国のリーダーになってしまうこともある。だがその考えを改めない限り、私たちはその人の行く末に希望がないことを知っている。
今は自分を英雄だと思い込んでいる。しかし英雄というものは他人が評価したから英雄になれたということがわかっていない。自分が思っているだけでは「裸の王様」だ。

ちょっと前にスキャンダルで騒がれたベッキーさんというタレントがいる。彼女はアノ騒ぎになるちょっと前に、あるテレビの番組でこんな事を話していた。

「私にブームはいらない」
「いつも並でツーっと平らに生きるのが夢」

ブームは必ず去って忘れられる時が来る。だから私にブームはいらない、と。聡明な人だと思う。
また以前のようにゆったりと活躍する彼女の姿を観られることを楽しみにしている。