私たちは騙されている

以前に引田天功さんのイリュージョン(「人はギャップに驚き感動する」)のことを書いたが、人はとにかく自分の目の前で起こった、その目で見たことは疑うことなく信じる。たとえそれが仕組まれたトリックであったとしてもそのトリックに納得するまでは信用する。

イギリスのネス湖に住むという「ネッシー」は、当時外科医が撮ったという写真が新聞に載り60年もの間、伝説の恐竜として世界中で話題になった。これも20世紀末になってとあるイギリス人が死に際に「あれは自分がジョークのつもりでやった」と告白したためニセモノ疑惑は高まったが実際のところはよく分かっていない。

これも「写真」という当時としてはかなり信憑性の高い媒体が証拠として挙げられていたので信じる人が急激に増えたが、そのような目撃談だけなら現地では1000年以上前からあったのだという。つまり話だけなら何とでも言えるが写真というビジュアルがあったことで信用度が高まったのだ。

もちろん今では写真や映像も加工技術の発達でフェイク(ニセモノ)が出回っており、ネット上に散乱している画像などは信ずるに値しないもののほうが多いくらいだ。あったものを消したりなかったものを書き加えるなど朝飯前である。特に広告や写真集に使われる画像などは100%加工されているが、その内容は色調整やトリミングの域を大きく逸脱し、シワやホクロを消すことなど罪が浅いほうで、目を大きくしたりお腹周りをスリムにしたり足を長くするなど日常茶飯事だ。最近流行りのダイエットを謳ったエステサロンやトレーニングジムの広告写真など眉に10回位唾を付けて見ても真実などまったく見えてこない。業界では「お絵かき」などと言われてCGで一から描いた作品なども普通に出回っている。

逆に言えばウソ(とは言わないまでも)の写真や映像を見せれば信用する人は爆発的に増加する。
先日もテレビの旅番組でイタリアのアマルフィ海岸の特集をやっていた。もちろん天気のいい日に実際にその地を訪れたなら、そこには素晴らしく青い空、白い雲に地中海の雄大な景色があることは間違いないのだが、それにしてもその画像は加工されすぎていた。実際に見たらもっと自然でいい色だと思われるのに、その映像は明らかにフィルターがかかっていた。

ボクもダイビングをして海の写真を撮っている。沖縄の海に行けばまるで絵葉書そっくりのエメラルドグリーンの海が間違いなく目の前にあるのだが、自分で写真に撮ってみると写真からはその感動がまったく伝わらない。今のデジタルカメラには「〇〇モード」などというものがあって、実際にその場で見たようなリアリティのある写真に自動で色調補正してくれるので撮る人は意識していないかもしれないが、ただ撮って補正をしない写真など見られたものではない。

海や空をより青くする(感じさせる)にはマゼンタという赤っぽい色を強調する。すると白っぽくなっていた青がぐっと深みを増して素晴らしく感動的な写真になる。しかしこれもやりすぎると不自然に青が強調されるどころか何となく緑が赤みがかった緑になってしまう。それこそ怪獣でも出てきそうな海や空になってしまうのだ。何ごともバランスは大切だ。

今の世の中はフェイクに溢れている。それも心地よいフェイクなら問題はない。しかし肝心なところで偽造、捏造されてしまうと判断を誤ることになりかねない。
世に出る画像には多少の加工や修正が必ず入っているが、特に重要な判断を迫られる時(ネットの買い物などでも)にはそれが本当に自分の考えているものと同じなのかは慎重に見るべきである。ただそれがフェイクなのかどうかを見破ることはとても難しい。本物がどうなのかは媒体を通して見るボクたちにはわからない。しかしそこにどんなトリックを仕掛けることが可能なのかを知っておくことで悪意に騙されないような防衛をすることは可能だ。