好奇心は突然に

ボクは子供の頃、マンガを読まなかった。いや正確には家でマンガを読めなかった。マンガを買ってもらえなかったからだ。
うちではマンガが禁止だった。今で言う「うちはゲーム禁止」みたいなものかも知れない。他にもそんな家の友達は何人かいた。「マンガ有害原理主義者」の家の子である。マンガなんか見てるヒマがあったら文学を読みなさい的な発想である。今この歳になってみるとマンガでも文学でもさほどの違いがあるとも思わない。どちらにしてもボクにとっては娯楽だ。ただ最近になってマンガの意外な力を感じている。それは今頃になってボクの人生に彩りを付け加えようとしているのだ。

小学生の頃はいつも、床屋に行くとマンガを読み漁っていた。少年漫画である。あとからやって来た人に順番を譲りながら1カ月分のジャンプとマガジンとサンデーとチャンピオンとキングを貪るように読んだ。
少年漫画は小学校のクラスの男子のほぼ全員が読んでいた。友達同士の話題にもマンガのストーリーが出てくる。常に学校で話題になるので大体のあらすじは知っておいたほうが会話が弾む。いや知らなければ会話に参加することさえできなかった。だからボクは毎月床屋に行くと必死になってマンガを読んだ。
そんな少年漫画も相次ぐ廃刊が話題になってもう久しい。

話は変わるが、熟年になるとにわかに神社仏閣や古墳巡りなんてものを始める人がいる。お寺や神社の境内なんて子供にとっては日常の遊び場でしかない。いたずらをして寺のちんねん小坊主に追いかけ回されることも日常茶飯事だった。お墓は肝試しの舞台でしかない。お彼岸の墓参りなぞ退屈で仕方がなかった。そんなクソガキがいい年になると寺や神社にお参りに行くようになる。

大抵の神社やお寺には数百年の歴史がある。神社やお寺は昔から洪水や津波の被害を受けにくい高台に建てられている。いやそういう土地に建てられたものだけが何百年も残ってきたのだろう。そんなところに行くと長い歴史の営みで自分の心が洗われるような気がしてお参りに行く。
日本の歴史は小学生の頃から教わってきたはずだが英語の勉強と一緒で身についていない人が多い。なぜなら英語はさておき、歴史の教科書には試験問題にしやすそうな出来事と年号の断片情報しか載っていないからだ。そんなものを覚えたところでさっぱり面白くないので、試験前に苦い薬を無理やり飲むようにして覚えたことも試験が終われば綺麗サッパリ忘れてしまう。忘れたところでその後の人生に与える影響はほとんどない。

ところが試験勉強をする必要がなくなってから長い時間が経つとあの頃の勉強とは違う自然に湧き上がる好奇心によって「知りたい!」と思う気持ちが強くなってくることがある。それは天文学だったり心理学だったり生物学だったり経済学だったり人によってそれぞれだが、ボクは最近になって歴史に興味を持っている。それは西洋のギリシャやローマだったりもっと古い古代や人類がホモ・サピエンスとしてあるき始めた頃だったり、日本の古墳時代や飛鳥・奈良時代、鎌倉・室町時代だったりする。そんな長い時間の流れも含めて歴史を俯瞰して見るには学生時代の試験勉強のようなやり方をしても意味がない、というよりもボクの人生に間に合わない。まずはザックリと浅く広く見渡すところから始めたい。それも時間を掛けずにまずは薄くてもいいから全体のストーリーを知りたいのだ。
そんな時にとても役に立つのがマンガだ。

日本書紀や大鏡のような史書はボクのような歴史のシロートにとって手軽とは言えない。というより学び始めとしては敷居が高すぎる。最初はそんなに詳細で正確でなくてもいいと思っている。そこで興味が湧けば少しずつ掘り下げていけばいいのだ。週末に試験があるわけではないしすべてを細かく知る必要もない。まずは面白そうなところをつまみ食いして”お話し”として楽しみたいだけなのだ。
そこで手っ取り早くて面白いのがマンガだ。今では経済学でも法律でも宇宙物理学でもいろいろな分野を面白おかしく語ったマンガが出版されている。ちょっと前にもドラッカーのマネジメント理論をマンガにした作品が話題になっていた。
”学び”の取り掛かりとしてマンガは手軽だ。

もちろんマンガはマンガであって歴史書ではない。だから史実ではまだ明らかになっていないことについて脚色は多いが物事の流れをストーリーでザックリ理解できる良さがある。
また時として史実と違う結論になることもある。でもそれはそれでいいのだ。無責任な読者は「もし」を想定して史実とは違った結論になったときのことも想像して楽しみたい。だってマンガなんだから。

「なぜ?」という気持ちが好奇心を刺激する。好奇心がなければ知ろうと思わない。勉強したいとも思わない。だから「なぜ?」と思う気持ちを大切にしていきたい。好奇心のすべては「なぜ?」から始まる。
「なぜ?」という気持ちが起こったらマンガから取り掛かってみるのもいいと思う。好奇心を刺激するのにマンガは良い教材だと思う。
小学生の頃には思いもしなかったマンガの楽しみを人生の後半戦になってあらためて享受している。