取り返しがつかないこと

弾力性とか塑性(そせい)という言葉がある。弾力性は物が変形した時に元に戻ろうとする性質で塑性は変形したままになる性質のことだ。一般にゴムには弾力性があるし鉄の針金には塑性がある。一方でガラスはどうだろう。ガラスは無理に変形させようとすれば割れてしまう。力を加えても変形しないで突然に壊れてしまう性質のことは脆性(ぜいせい)と言われている。
ゴムは多少の力を加えても自然に元の形に戻るし鉄の針金だって変形しても数回程度なら元の形に戻すことができる。しかし割れてしまったガラスや陶磁器のお皿は二度と元に戻ることはない。
一度変化しても元に戻ることの出来る性質を可逆性(かぎゃくせい)といい戻れない性質を不可逆性(ふかぎゃくせい)という。中学か高校くらいの化学や物理に授業で習ったはずだ。

ガラスや陶磁器は割れてしまったら元に戻ることはないが他にも不可逆的なものはたくさんある。
例えば水は水素と酸素から出来ている。水素と酸素を反応させることで水ができる。この時に発生するエネルギー(電気)を利用したのが電気自動車だ。水素と酸素を反応させて電気を得る装置を燃料電池という。最近はテレビのニュースなどでもよく聞く単語だ。そして逆に水に電気を加えると水素と酸素に分解することも出来る。水の電気分解である。
水素+酸素⇔水
の反応はどちらも可能なので可逆的だ。
しかし接着剤はどうだろう。チューブなどに入っている状態では液体だったりゲル状だったりする。しかし接着したい部分に塗って貼り付けてみる。接着剤が乾いてしまえば固体のように固まってしまう。そして水で濡らしても元のような液体に戻ることはほとんどない。不可逆反応である。

これには時間が関係することもある。
乾いた布を濡らすには水に浸せばいい。一瞬で濡らすことができる。ところが濡れた布を乾かそうと思うと干したりドライヤーで温めたりしなければならず時間がかかる。与えられた時間が5秒しかなければ濡れた状態と乾いた状態の変化は不可逆的だ。同様に冷たい水をお湯にするにはヤカンに入れて火にかければ良い。しかしそれを冷たい水にしようと思えば冷ましたり冷蔵庫に入れて冷やしたりしなければならず温める場合と比べると長い時間がかかる。ケガをして皮膚を擦りむいた時にはもっと顕著だ。ケガをするのは一瞬だが治るには長い時間がかかる。「注意一秒ケガ一生」と言うではないか。
一方向の反応が変化しにくい、または変化に時間がかかるということは半不可逆的と見ることもできる。

反応が可逆的なものか不可逆的なものであるかは普通の生活の中でも慎重に考えておく必要がある。なぜなら不可逆的な反応が起こってしまったら取り返しがつかないからだ。壊れて二度と元に戻らないことなら可逆反応に優先して検討しなければならない。不可逆の事柄は優先して考えるべきだ。取り返しがつくものはその後で考えればいい。やり直せばいいだけだ。
”濡れる”というような変化しにくい反応が関わっている場合も可逆的なものより慎重に見極める必要がある。自分の持ち時間の中でやり直しが効かなければやはり取り返しがつかないのと同じことになる。

もっともどちらともつかない問題だってある。
男と女の関係のような場合は可逆的であることもあるが多くの場合は不可逆的である。結婚は勢いで出来るが離婚には非常な労力が伴う。
とかく男と女の問題は難しい。

人の人生は最後に大きな不可逆反応を迎える。誰もが経験してきたし多分これからも経験しない人はいない。
誰もが経験するもっとも大きな不可逆反応は”生と死”かもしれない。
いずれやって来る大きな不可逆反応を前にして後悔のないように毎日を生きていたいものである。