君は使ってみたか

朝起きて顔を洗う。歯ブラシを手に取りチューブから歯磨きを絞り出して歯を磨く。毎朝繰り返す手順だ。
歯磨きが残り少ない。開封して最初のうちはチューブをちょっと押すだけで適量が出てきたが量が減ってくるに従って絞り出すようにしないと出てこなくなる。そういえば昔、歯磨きチューブが薄い金属だった頃はもっと苦労したような気がする。几帳面な人は最初のうちから末端部分を丸めて順繰りに中身を押し出していくが、いい加減な性格の親父がすぐにチューブの真ん中を先に押しつぶしてしまい、途中からは硬いチューブを歯ブラシの柄でシゴキながら使ったものだ。いずれにしても最後はチューブのキャップが付いている肩の部分に相当量の歯磨きが残ってしまい、モッタイナイなぁと思いながらも捨ててしまうのが常だった。

■画期的なチューブ
当時、1つだけ画期的な製品があったのを覚えている。”ラミネートチューブ”というものだった。今では当たり前になってしまったがチューブが樹脂製の弾力のある素材でできていて薄い金属製のチューブと比べると格段に中身が押し出しやすくて子供ながらにビックリしたものだ。今となっては金属製のチューブなど見なくなってしまったが最初に考えついた人は大したものだったのだろう。この歯磨きは中身の性能は他の製品と比べても特筆すべきものはなかったが、ただ一点ラミネートチューブを使っているというところで大きなアドバンテージを持っていたのだった。

■ビオレUは素晴らしい
最近、ちょっと「いいね」と思ったものがある。ボディシャンプーだ。我が家のお風呂はお洒落でもなんでもないのでボディシャンプーのボトルはドラッグストアで買ってきたそのままである。毎回ボトルを捨てて新しくするのもなんなので普段は詰替え用のパックを買う。シャンプーやリンスの詰替パックといえば薄っペたい樹脂の容器に入っているものが一般的だ。詰め替える時には指で切り口をちぎって元の容器に移し替える。入浴中だと濡れた指が滑って切り口がつまみにくく切り取るのに苦労することがある。また切り口が潰れていると容器の口から詰め替えるのにもちょっとしたコツが必要だ。
ところが先日買った花王のビオレUはパッケージの材質は同じだが形状が変わっていた。そして切り口ではなくプラスチックのキャップ式注ぎ口に変更されていたのだ。この形だと切り口をちぎる必要もなく容器に移し替えるのもいたって簡単である。価格は多少高くなったのかもしれないが浴室内で四苦八苦することを考えれば安いものだ。まさに高付加価値商品の典型例だろう。

■一度に使い切らない粉物
キッチンを見回してみても数々の工夫作が目に留まる。例えば粉類はどうだろう。一般家庭では小麦粉や片栗粉、パン粉を1回で一袋まるまる使い切ってしまうことは少ないと思う。特に粉類は湿気やすいので封を切って残ったものの保存が問題になる。ところが最近はマジックチャック(圧着すると密閉できる樹脂製チャック)の付いたものが出ているのである。お店によってチャック付きの製品を置いていないところもあるが、我が家ではそのような店は使わないようにしている。そういうところに目が行かないような店は消費者目線で考えていないことが多いのだ。安かろう悪かろうでは日本の消費者の心は掴めない。

■一気に山ほど食べきって欲しいポテチ
このような例は他にもある。お菓子の袋でもそうだ。ポテトチップなどでは恐らく一度に全部食べさせて売上を伸ばしたいという思惑があるのかチャック付きの製品を見たことがない。一方で豆類や飴類ではチャック付きの商品が増えてきた。一度に一種類のお菓子だけを沢山食べるのではなく多品種を少量ずつ食べたい時にチャック付きのお菓子袋は重宝する。逆にチャックのないポテトチップの袋を開ける時にはちょっと気合を入れて決断するような気分になる。

■開発者はユーザのことなど考えていない
これはスーパーで扱っている食品などに限ったことではない。かつてIT企業でソフトウェア開発に携わっていたときにも感じたことだ。
ソフトウェアは必ず用途が決まっている。そして果たすべき機能も厳格に決められる。逆に決まっていなければ開発ができない。だから開発者は依頼主と入念に打ち合わせを行なって用件を決める。その時に念頭にあるのは”何が出来るか”だけだ。
開発が進んでプロトタイプが出来上がる。事前に打ち合わせた機能がちゃんと実装されて間違いなく動くことをテストする。その時念頭にあるのは”機能を満たしているかどうか”だけである。
テストが終わってソフトウェアが一般の利用者にリリースされる。するとほとんどの場合は5分以内に苦情が出る。
「使いにくい!」
当然だ。そもそも使いやすさなど考えていないのだから。
ユーザから必ず言われるのは「自分で使ってみた?」というセリフだ。確かにテストは散々繰り返したが自分がユーザになって使ってみたことは、ないのである。
伝票を登録するだけの簡単なプログラムであっても、伝票を見て入力してみたことはない。入力したデータがちゃんと登録されて正しく表示されることを確認しただけである。一度でも実際の業務に沿って作業をしてみれば”使い物にならない”ことくらいはすぐにわかるのに。

自分の作った、扱っている商品を一度でもユーザー目線で使ったことあるだろうか。今でも使い物にならないとまでは言わないが、使いにくい商品や製品は街にあふれている。開発者も自分で作った製品や商品を自分で買って一度でも使ってみれば不都合なところはすぐにわかる。それでわからないようであればユーザー目線が完全に失われているということだ。
開発者はテストしかしない。何がお客様の役に立つのかを考えないでボーっとしているエンジニアにだけはなりたくないものだ。