備えあれば憂い少なし

まだボクが学生だった1985年8月12日。家に帰ったボクは何気なくテレビを点けた。夕方の情報番組の画面にニュース速報のテロップが流れた。

「羽田発大阪行きの日航機が行方不明」

えっ?と思った。旅客機が行方不明ってどういうこと?何だかエライことになるんじゃないかという胸騒ぎがした。その後の経過はご存知のとおりである。
あの事故から30年以上が経ち、様々な検証が行われた結果、おおよその原因が究明された。

・1978年に大阪・伊丹空港で起きた同機の尻もち事故
・その後の米・ボーイング社による後部圧力隔壁の修理ミス
・事故当日に発生した圧力隔壁の破壊
・垂直尾翼および機体後部の油圧系統パイプの破壊
・油圧系統の崩壊によって操縦不能、墜落

というのが大まかな経緯ということになっている。乗客乗員524人中520人が犠牲になり単独の航空機事故では世界最悪の事故になった。乗客には財界・芸能界などの著名人も数多く搭乗しており、歌手の坂本九さんもこの事故の犠牲になった。

■事故は現場だけで起こってるんじゃない
世界中の航空機事故やスリーマイル島原発事故などのドキュメンタリーを数多く執筆されている柳田邦男氏は、これらの事故について貴重な意見を述べられている。
要約すると、何か事故が起こると「誰のせいか」という責任論と犯人探しばかりが横行するが、巨大事故の多くはその事故が起こるずっと以前に、言ってみればシステムの設計段階から内包されていた問題が偶然その時に悪条件が重なることによって現実の事故となって現れることが多いのである、ということだ。
つまり事故は元々存在していた原因がその時たまたま形になって起きた現象なのだと。いつ起きてもおかしくない原因はずっと前から存在していたのだというのである。

■「フェイル・セーフ」という考え方
ここで柳田氏はとても大切なことに言及されている。
「フェイル・セーフ」
:あらかじめ想定される事態に対して二重三重に対策を施しておくことで、どこかが壊れてもそれが構造全体の破壊にまで波及しない、ましてや操縦不能になるような事態にはならないという設計方針でシステムを作らなければならないということだ。

この事故で言えばシロウトが思い当たるだけでも、

・尻もち事故が起きた段階での圧力隔壁への影響
・修理を行った際の次に破壊が起こった時の影響
・飛行中に破壊が起こった時の操縦への影響

などが考えられる。例えば、機体の1箇所が破壊されただけで飛行機全体の油圧系統が全滅して操縦不能になったという設計段階での問題などだ。油圧のパイプが機体の1箇所に集中する場所があればそこが急所になってしまう。油圧系統が仮に、コントロールするパーツごとに数カ所に分散されていれば1箇所が破壊されてもどこか動かせるパーツが残っている可能性もある。つまり予備とは言わないまでも機能を分散させることで”全てがお手上げ”という状態を作らないようにすることが重要だ。日航機の事故以来、多くの航空機メーカーが油圧系統を始め様々な設計変更を行っている。

■多角的な対策の必要性
これは航空機だけに限らない。現在、東海道新幹線は東京-新大阪間を上下1本ずつの線路で繋いでいる。平塚市も新幹線の線路が通っているが、例えばその中の高架橋の一つが崩れたりまたは故意に破壊されれば東海道の大動脈の一つが簡単になくなる。自動車網では東名高速道路の他に一部では第二東名、中央自動車道が整備されているため、東名高速道路で不測の事態があっても取り敢えず全滅することはない。
事は国内問題だけではない。日本はほとんどの食料やエネルギーを輸入に頼っている。これらは1日でも止まれば我々の生活に重大な影響がある。
それらを数少ない国、例えば中東やアメリカ、オーストラリア、中国などからその大半を輸入しているのであれば、万一それらの国との間に不測の事態が起これば、数ヶ月の備蓄しかない日本はあっという間に飢えることになる。事は安全保障の問題だ。

福島の原発事故でも同じような問題は露呈した。すべての電源を失っても何らかの方法で原子炉を、核燃料を冷却する手立てがあれば事故も起こさなかったし爆発もしなかったかもしれない。福島でもそういう仕組を取り入れていたはずなのにいざとなったら機能しなかった。一つの失敗が全部をダウンさせてしまうことは非常にまずい状態だ。

これはビジネスでも似たような状況にある企業は星の数ほどある。1つの得意先からの受注額が3割を超えていたら相当にリスクの高い状態だ。何らかの経済環境の変化や競合他社の影響、小さなことで言えば相手企業の経営者の胸先三寸で自分の首が締まることは普通にある。
そのためにも日頃からフェイル・セーフということを頭に入れておくことは重要だ。