どうしたらよく混ざるのか

最近では東急ハンズなどに行くと「夏休み自由研究キット」みたいなのが売られていて、パッケージを開いて取説通りに作業すると学校の自由研究の宿題が完成するそうである。その事のいい悪いはこの際置いておくとして、今の子どもたちには「不思議だなぁ」とか「どうしてなんだろう」という気持ちは起こらないのかな?と不思議になる。

今の子にはインターネットがあるから、わからないことはインターネットで検索すればだれでもすぐに解決するんだろうか。そんなことばかりではないと思う。平日の昼下がりに近所の公園にでも行ってみるといい。まだ学校にも通っていない2~3歳の子供がスマホに夢中になるママの足元で土いじりをしたりしている。枯れ葉をつまみ上げて「これなに?」なんて言っている。最近では犬の糞が落ちていることは少ないのでママたちもスマホに夢中で子供のことなど見ていない。子供は別のゴミを拾い上げて「これなに?」と訊いている。「これなに症候群」の年頃の子供は目にするものは何でも訊いてくる。ママにしてみれば”ウザい”時期だ。
もうすっかり忘れているが、自分もそうやって成長してきたのだろう。

ボクには最近気になっていることがある。
我が家では食パンを買わないので家で食べるパンはホームベーカリーで焼いている。ご存じの方も多いと思うが、ホームベーカリーでパンを焼くときには、強力粉や砂糖、塩、スキムミルクなどをあらかじめよく混ぜてからホームベーカリーにセットする。混ぜ方が甘くてよく混ざっていないと発酵した時に均等に膨らまなかったり、発酵がうまくいかずに焼き上がりがカチコチの小さなパンになったりする。以前はそのことに気づかず「冬で寒いから発酵しなかったんだな」などと決めつけていたが、ある冬の寒い朝にもふっくらしたパンが焼けていることもあり”低温説”はあっけなく否定された。
また小麦粉は都度買いに行くのも重たいので10袋くらいまとめてアマゾン・パントリーに発注している。在庫の最後の方は買ってから1ヶ月以上経った”古い”小麦粉なのでそのせいかもしれないと思ったりしたが、それでもちゃんと焼けることがあるので新旧も関係ないらしい。残るはボクの作業だ。混ぜ方が悪いのかもしれない。

ホームベーカリーが我が家になってきてから8年間に渉って色々と混ぜ方を試してきた。そして最近になってようやく効率的な混ぜ方が分かってきたのだ。
ホームベーカリーの説明書によれば、粉が”ダマ”にならないようにフルイにかけて細かくしておけ、と書いてある。でも結果的にこれは関係なかった。フルおうがフルうまいが出来栄えに大きな差はなかった。違いが大きく出たのは冬場に乾燥して砂糖が固まってしまったときだ。大きな塊のまま残しておくと大抵は失敗する。固まった砂糖は砕いて細かくしておかなければダメだ。それ以外にはこれと言ったコツはないが、これらの粉を混ぜ合わせるのは非常に重要な作業である。
ホームベーカリーが最初に自動的に撹拌してくれているように見えるが、水なども一緒に加えてあると粉はちゃんと均一に混ざらない。
粉類をボールに入れたら、まずスプーンを垂直に挿して上下方向に動かし、上と下の粉を撹拌して混ぜてから水平方向の撹拌に移る。最後に円を描くように”下から上”の撹拌を1分ほど繰り返してからセットする。この方法に変更してから50回は焼いてみたが失敗は、ない。

今にして思えば、こういうことを小学校の自由研究でやればよかったと思う。でもあの頃はホームベーカリーなどなかったから子供が小麦粉を混ぜるシチュエーションがなかった。返す返すも残念なことだ。
今ボクが小学生で、そんなテーマを見つけたらどうしただろう。小麦粉も砂糖もスキムミルクも塩も真っ白で混ざったかどうか判別しにくい。そうだ100均で色の付いた砂を買ってきてガラス瓶の中で実験してみるのもいいかもしれない。あの頃は100均もなかったが今は便利な時代だ。
でも砂は一度混ぜてしまったら2度と別々の状態に元に戻すことはできない。砂粒の一つ一つを選り分けるなど正気の沙汰ではない。何度も繰り返して実験するにはどうしたらいいのか色々と考えたことだろう。ボクは工作も好きだったので重さによって色の違う砂を分ける装置を作ろうとしたかもしれない。楽しい時代だった。

ところで混ぜてしまった砂はなぜ元に戻らないのだろう。混ぜるのは簡単だが分けるのは難しい。それは水とお湯でも同じだ。0℃の水と100℃の熱湯を500ccずつ混ぜれば1リットルの50℃のお湯になる。だがそのお湯をじーっと眺めていても元の0℃の水と100℃の熱湯にはならない。熱が外に漏れてしまわなければエネルギー保存の法則も成り立つが、2種類に分かれることはない。どうしてだろう?
ここから先は小学生には難しいかもしれない。これは「熱力学の第二法則」いわゆるエントロピー増大の法則だ。エントロピーとは簡単に言えば”乱雑さ”のことだ。動いていないビー玉と高速で動き回っているビー玉を箱の中で混ぜれば、やがて全部がそこそこの速さで動くビー玉になってしまうということだ。

下世話な話に例えれば、きちんと整理整頓された部屋も、何もしなければ散らかった部屋になるということだ。元の状態にしようと思えば一生懸命に部屋を片付けて整理整頓しなければならない。ぐちゃぐちゃになった部屋の中が自然に片付くことはない。
高校生の物理くらいで習った記憶があるので小学生には「わかりませんでした」という研究結果だったかもしれない。でも「わからない」ということも答えだ。わからないということがわかったのだから。

答えがすぐに分かるのは便利だ。けれど自分で何かを解決する喜びや考える力は育たないのではないか、と思う。すぐにオトナが答えを教えてしまうことはいいことなんだろうか。「大きなお世話だ」と言われることが分かっていてもちょっと心配になるのだ。