相次ぐ自然災害の中で風評被害という言葉をよく聞く。火山の噴火警戒レベルが上がってしまって観光地の客足が減ったとか、温泉が出なくなって観光客のキャンセルが相次いだとか、地震や台風で鉄道や道路が壊れてお客さんが来なくなって客足が例年の半分になってしまったとかいう話をよく耳にする。「風評被害に負けないで…」などと話しているのを聞くと「それは風評被害ではないと思いますよ」と言いたくなる。もちろん売り上げが下がって経営にダメージを受けて大変な気持ちはわかるがそれはあくまで風評ではなく自然災害による被害だ。
我が家の近くの有名温泉地で噴火警戒レベルが引き上げられたときにも「この近所は大丈夫ですから安心して遊びに来てください」と言っていた。確かに温泉地の入り口は大丈夫かもしれないが訪れる観光客の多くは噴火の危険が高まっている噴火周辺に行きたいのだ。自分のところは大丈夫なのに他の地域のせいで売り上げが下がっているから風評被害だというのはあまりにも短絡的だ。そもそも不確かな情報ではない。観光地を楽しみつくしたい人が入り口だけで満足するだろうか?あなたならどうする?全部を廻れないならキャンセルもやむなしという判断をする人も多いだろう。(自分のところは)安全だからと言う情報に乗せられて一緒に訪れた他の場所で万一にも被害に遭ってしまったらどう責任を取るつもりなのだろうか。自然災害なんだから自己責任ですとでもいうつもりなのだろうか。
風評被害とは、ありもしない不確かで無責任なうわさやフェイクニュースによって人心が惑わされることによって本来の正当な評価がされずに被害を受けてしまうことを言う。しかし交通機関が止まっていたり何らかの危険が迫っているという気象庁などの情報はある意味で責任ある立場の人が出した正当な情報だ。それを風評被害と言い張るのはいかがなものだろう。
一方で東日本大震災とそれに伴う原発事故がもたらした放射能拡散による土壌汚染などは各種のデータから見てある程度確かな被害だった。これが人災か天災かというところはいまだに裁判で争われているが、原発事故が周囲を汚染したことは間違いないし特に周辺の地域はいまだに大きな被害を受けている。福島産の農作物は色眼鏡で見られ水産物は獲ることすら現状ではほとんど認められていない。
収穫した農作物を一つ一つ検査して安全であることを確認したうえで「福島のコメや野菜は安全です」と言っているのに風評被害を受けてなかなか売れないのだという。しかしそれには一理ある。放射線被害や汚染とは直接関係のなかった周辺地域の人たちまでが「心配だから九州まで避難します」などと言っているニュースをマスコミが流せば、「現地の人が心配するくらいに放射線の影響があるらしいから福島のものは買わないでおこう」という人が全国で出ても何ら不思議ではない。「地元の人だって何も根拠がなければ避難するわけはない」「何か隠してるに違いない」思うのが自然だ。
それもこれも原発事故の発生当初に政府や東京電力が事実を隠したりウソをついたことがすべての原因だ。誰もが本当のことが何なのかがわからなくなってしまったことが一番の原因だと思う。すべての信頼を失うということはまさにこういうことがきっかけだ。せっかく生産者が手間暇お金をかけて安全性を確かめているのに風評被害をもたらした一番の原因は政府と東京電力なのである。
我が家では福島に限らず熊本や岡山、北海道、千葉、長野、茨城など被災地の産品を積極的に買うことで「買って応援」することにしている。福島の農産物は安全だと政府ではなく生産者が自ら大変な手間をかけて検査して出荷している。少なくとも政府よりか彼らのほうが誠実だ。福島の人が「危ないから」と遠くへ避難したとしても自分が「安全だろう」と思えば気にせず買っている。地震や豪雨災害の被災地については言うに及ばずだ。他の地域の産品も苦労して作っているのだろうと思うが、とりあえず今は被災地を優先にしたいと思っている。
政府やマスコミの信頼はあのとき地に堕ちた。国民には何も言わなければ騙せる、視聴率さえ取れればいいなどと思っている彼らはその罰を受けなければならない。少なくともあと90年は元に戻ることはないだろう。この災害に直面した世代が死に絶えるまで我々は彼らの犯した罪を忘れることはない。
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