企業が主催する懇親会や宴会には縁がないという方もいらっしゃるかもしれないが、ホテルなどで企業が開催する招待会や表彰式の後の会食では料理とお酒が提供される。もちろん料理はホテルの厨房で調理されたものが出されるがビールなどのお酒は酒屋さんから仕入れたものがそのまま出される。
そこで問題だ。今日は三菱商事の周年記念パーティーが開催されるとする。式典の後のパーティーでは料理は立食・着席・ブッフェなどのスタイルと予算に応じてお客さんの要望を聞きながら料理長が作る。時には会場の中に寿司や天ぷらなどの模擬店を設営することもある。そして会場の隅にはバーカウンターが置かれてウイスキーやビール、カクテルなどが用意され、めいめいに好みの飲み物をオーダーすることになる。
ここで用意されるビールはどこのメーカーのビールが出されるだろうか? そんなこと考えたこともないという人も多いと思うが、今日のパーティーの主催者が三菱商事なら「キリンビール」一択だ。間違ってもスーパードライやモルツが出てくることはない。
戦後、日本の財閥は解体されたがその血筋は脈々と残っている。以前は銀行などの金融機関がメインだったが企業は金融機関とのつながりが濃いので自然と旧財閥が集まってグループが出来上がっている。だからビールなら三菱系はキリン、住友系はアサヒ、三井系はサッポロ、三和系はサントリーと決まっていた。
そのつながりを追いかけていくと日立や日産は三井系のサッポロ、NECなら住友系のアサヒと決まってくる。だからホテルの用度(購買)課では4社のビールを絶対に切らさないように常に在庫しておくのである。
宿泊を伴う招待会などでは客室に置かれているテレビのメーカー指定までされることがある。ボクが以前勤めていたホテルには1000室を超える客室があったが、設置されているテレビや冷蔵庫のメーカーも4社ほどが均等に置かれていた。
中には社内結婚をして披露宴に会社のお偉いさんが来るというので、披露宴で出すビールのメーカーさえ指定されたこともある。新郎が日立で新婦が住友に勤めていたらどうするのかと思っていたら「新郎の会社に合わせる」のが”正解”だった。「新婦は結婚したら寿退社するから」なのだそうだ。昭和とはそんな時代だった。社員は企業の”所有物”だった。
それからしばらくしてリストラの嵐が吹き荒れて終身雇用制はそこかしこで崩壊した。定年まで面倒を見てくれるはずだった会社は急に社員に冷たくなった。何かあれば、いや何もなくてもいきなり首を切られる時代になった。そんな今でも社内結婚をしたら披露宴で出すビールのメーカーを決めるのに上司の顔色を忖度するのだろうか?
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