レコード盤のチリチリした雑音がいいのだという人がいる。うちにはまだ何十枚かのレコードも残っているが押入れの段ボールにしまい込んだまま、もう何十年も聴いたことがない。そもそもうちにはレコードプレーヤーなどもうない。
先日、Amazon Musicでオスカー・ピーターソンのデジタルリマスター版を聴いた。オスカー・ピーターソンは1925年に生まれたジャズピアニストなので録音されたレコードは60年代から70年代のものが多い。まだCDが登場する前のことなのでそのほとんどがレコード盤で発表されている。もちろん今ではレコードにカットされたものがそのままCDになって発売されているものが多いのだが、60年代のレコードのダイナミックレンジなどたかが知れているのでCDで聴いても籠ったような燻んだような音がするばかりだ。
ところがデジタルリマスターで雑音を消し、ダイナミック・レンジを広げたものを聞くと現代に録音されたものと遜色がない。昔のレコードをそのまま聴くと古くて懐かしい音はするものの、なんとも薄っぺらい音で「昔のレコードってこんな音だったっけ?」と驚くほどだ。それでも当時はレコード針はナガオカが好みだのスピーカーはJazzを聴くならJBLだの、マランツのパワー・アンプだのマッキントッシュのプリ・アンプだのデンオンのターンテーブルも頑張ってるけどやっぱりマイクロの糸ドライブはスゲーぞなどと偉そうに批評していたものだ。テープもレコードもなくなった今となってはワウ・フラッターなどという言葉を聞くこともなくなった。
テレビがアナログから地デジに変わった時もそうだったが、変わって間もない最初の頃は「そんなに綺麗な大画面じゃなくてもいいんじゃない?」などと思っていたのにしばらくたってすっかり地デジに慣れた今になって昔の映像など見ると「こんなにボヤけてて大雑把だったんだっけ?」とびっくりしてしまう。我が家にはまだないが4Kや8Kになったりすると今の地デジも「あんな〜時代も〜あぁ〜たねと〜♪」などと歌ってしまうのかもしれない。
先日NHKで「大草原の小さな家」という昔のアメリカのテレビドラマをデジタルリマスターした映像を見たら、YouTubeなどに残っている当時の画像とは雲泥の差だったのでたまげてしまった。これならデジタルリマスターでもう一度見てみようと思ったのだが、その後NHKはデジタルリマスターの放送を4K放送だけにしてしまった。こんなところで貧富の格差を見せつけられるとは思っていなかったので、ボクは今、NHKにかなりの恨みを抱いている。
それにしても一度高性能なものに慣れてしまうと、もう元に戻れなくなってしまうのだということを改めて痛感させられた。こんなことならずっと低性能のままでいいやと思うのだが、いずれ低性能のものはなくなって高性能なものを無理やり買わせようという流れになるのは目に見えている。しかしコロナ騒ぎの渦中でほとんどのテレビ放送が再放送やらネット中継になったのを見て、やるならやってみろ!俺は絶対に買わないぞ!などと一人気炎を上げているのである。
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