勘違いされる世界遺産

日々是好日

今年、新潟の「佐渡の金山」が世界遺産に登録される見通しがつかなくなったことで、地元の自治体や観光団体をはじめ、あちこちから落胆の声が上がっているのだといいます。今までの日本では世界遺産は地域振興や観光のカンフル剤として捉えられることが普通です。

だから石見銀山や旧富岡製糸場が世界遺産になったにもかかわらず、観光客は最初の年だけ増加したものの翌年からは右肩下がりになっていることに観光関係者は「期待外れだ!」と文句を言い始めているといいます。しかしそれは最初から手段と目的を履き違えていた当然の結果ではないでしょうか。

世界遺産の目的とは、”地球の生成と人類の歴史によって生み出され、過去から現在へと引き継がれ、そして私たちが未来の世代に引き継いでいくべきかけがえのない宝物で、「顕著な普遍的価値」をもつ建造物や遺跡、景観、自然のことで、その目的はそのかけがえのない宝物を保護し、未来の世代に引き継いでいくこと”だとユネスコは言っています。

でもほとんどの人は世界遺産登録のメリットを、遺産が登録されることで世界的な認知度が飛躍的に上がり、国内海外問わず多くの観光客が訪れるようになり、 観光客が現地で食事や宿泊、お土産の購入などにお金を使うことで、周辺地域の収益が上がり経済が潤うといった効果が期待できることが目的だと考えています。しかし世界遺産に登録されることは観光のための起爆剤ではないのです。特にここを勘違いしている人が行政や政治家、観光振興会には大勢います。目的と手段を履き違えているのです。

世界遺産とはそれが健全に保存され、未来の世代に受け継がれていくことが目的なのに、ガラパゴスのように世界遺産になってしまったことで観光客が激増し、そこで一山当てようとする人たちが押し寄せることで人口が増え、遺産登録された肝心の環境破壊が進んでいる実態があります。そのためユネスコは最早世界遺産としての価値がなくなりそうだということで認定を取り消そうとする動きもあります。

日本で言えば沖縄や小笠原がそれに当たるでしょう。それをいいことに政治家たちは、「小笠原に空港を作って観光客をバンバン誘き寄せる」なんていう本末転倒なことを言っています。小笠原は貴重な遺産があるからこそ遺産なのであって、観光客が押し寄せたら遺産の価値はなくなってしまうでしょう。映画のジェラシックパークのような人工に作ったテーマパークではないのです。

遺産は守ってこそ価値があり、それが守られてこそ観光客もやってくるのです。守るべき価値がなくなってしまえば観光客すらやって来なくなります。それは金の卵を産むガチョウの腹を裂いてしまうことなのです。そんなことにすら気づかず目先の金にばかり執着して開発ばかりにしのぎを削る体質は昭和の宰相・田中角栄の頃からまったく進歩していないと言わざるを得ません。

世界遺産としての「顕著な普遍的価値」が失われたと判断された場合は、世界遺産リストから削除されることもあります。これまでに、オマーンの「アラビアオリックスの保護地区」とドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」が削除されました。

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