プロは絶体絶命で力を発揮する

プロジェクトマネジメント

先日またみずほ銀行で大規模なシステム障害が起きた。第一勧銀、東京銀行、興銀の三行が合併してできたみずほ銀行だが当初から内部紛争が収まらず、それぞれで使っていたシステムをつなぎ合わせて運用してきた。そのせいかどうかはわからないが10年ごとに大きなシステム障害を起こしている。

システムを開発したり大規模な修正や改造などを行った際にはテスト計画に基づいた入念なテストを何度も繰り返して大きな障害が起こらないことを確認してからリリースする。今回もそんなテストを行っていたはずだが巨大で複雑なシステムゆえに予想外の障害が起きたのだろう。

システム障害が起きるとまずは現場のエンジニアに第一報が入る。その場で対応できればそれで収まって報告書を書いて管理者に伝えて終わりになる。日々起きているであろう障害の多くはコレで解決する。しかし今回はまる1日以上にわたってATMが使えなくなり、顧客のカードや通帳までが機械に飲み込まれたまま動かなくなるという致命的な障害だった。こうなると現場レベルの小細工ではどうしようもない。

もちろん原因と思われるあちこちの現場ではエンジニアたちが原因を究明するためにいろいろなアイデアを出しあって解決に向けて努力するが、仮にそこで原因の一つが突き止められたとしてもトラブルを解決するためにはそこからデータを復旧したりプログラムの修正をして再度テストをしたりして果てしない作業が待っている。そしてそれは時間との勝負だ。

こんな時、経験を積んだプロは「どうしたらより早く確実に復旧できるか」を考える。復旧するのにカッコイイも悪いもない。手作業が早ければ手を動かすし復旧プログラムを作った方が早くて確実だと判断すればそれを選択する。しかし経験の浅いエンジニアは「カッコよく解決する」ことを優先しがちだ。スマートに解決した方がエンジニアとしての評価も上がると考えるからだ。しかし今そこにある危機の解決にカッコよさは求められていない。

かつてホテルに勤めていた頃、結婚式の披露宴会場で事件が発覚した。宴会場の壁に天井から吊り下げるジョゼットというレースのカーテンのような装飾をホテルの担当者が発注し忘れていたのだ。そこへこれからチャペルで結婚式をしようとする新郎新婦が会場の下見にやってきた。

会場のひな壇には光り輝く金屏風が置かれている。それを見た新婦がふと「ジョゼットはこれから設営するんだね?楽しみだね」と新郎に向かって呟いた。それを耳にした黒服(サービスマネージャー)はすぐに二人と打合せをした担当者に連絡する。「二人が会場に来てジョゼットがないって言ってるんだけど」と伝えると担当者は「あっ、忘れてた!(^^;」となって事件は発覚する。披露宴の開始は1時間後に迫っている。

それから設営業者に連絡するも「1時間後では設営は無理です」とけんもほろろだ。その時会場にいたサービスマンの一人が「ジョゼットの現物なら裏の倉庫にあります。自分たちで設営するしかないんじゃないですか」と声をあげた。ジョゼットの設営はいつも外注業者がやっていたが、その彼は業者がやっていた作業を他の仕事をしながら見ていたのだった。

「門前の小僧、習わぬ経を読む」

事務職から支配人まで、ホテル内でての空いている人間が集められて全員で見よう見まねでの設営が始まった。初めての作業が遅々として進まない中、披露宴の開始時間は容赦なく迫ってくる。そして開始3分前、なんとか設営を終えた。

会場の扉が開きホテルマンたちが何事もなかったように見守る中、招待客が続々と入場して席につく。司会者が叫ぶ…

「新郎新婦の入場です!」
♪パパパパーン!パパパパーン!…

結婚行進曲とともに新郎新婦が入場してくる。そこには喜びに満ちたにこやかな笑顔。ボクたちの「一番長い日」はなんとか無事に滑り出した。それを見てかつてホテル学校の校長も務めていた嘱託のオジいちゃん担当者が呟いた。「人間っていうのはいざとなるとすごい力が出るもんなんだな」

これがきっとプロフェッショナルの力なんだろうな。

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