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人は専門家の意見に弱い。だからテレビを見ていると”自称”も含めて専門家という人がやたらと出てくる。しかしその人たちがコメントを求められるのは”自分の専門”と全く関係のないことが多々ある。薬学部の教授に経済の日米摩擦の意見を訪ねたり国際弁護士という人に子供のいじめの問題について意見を求めたりする。専門家も自分の専門以外のことでは一般的な知識しか持っていない。それでも”何らかの専門家”だというだけでお坊さんのありがたいお説教を聞くように拝聴する。

専門家が自分の専門について話すことさえ必ずしも正しいというわけではない。先日の番組に広島の牡蠣養殖をやっている漁師さんが出ていた。曰く「やっぱ牡蠣は生で食うのが一番美味いじゃけん(いや違う言い方だったかな?)」とのことだった。しかし漁師さんは味覚の専門家ではないし、そもそも何が一番美味しいのかに基準などない。あるのはそれぞれの人の味の好みだ。

「ハンバーガーとおでんの大根と鰻とタコスとサザエとスパゲティでは何が一番美味しいですか?」と聞かれたらあなたは何と答えるだろう。単価の高いものを選ぶのだろうか? 手に入りにくいものを選ぶのだろうか? 自分の好きなものを答えるのだろうか? 美味しさの度合いを数字にして点数化することなどできない。「その場で食べさせてくれる」というなら高くてなかなか手に入らないものを選ぶ人は多いだろうし、ただ聞かれただけなら自分の好みのものを答える人も多いだろう。選ぶ基準などない。

先述の牡蠣漁師さんは他の職業の人よりも牡蠣を食べる機会は多いだろう。牡蠣の生態にも詳しいだろう。牡蠣料理もたくさん知っているだろう。だからと言って牡蠣は生が一番だと思っているのはあくまで自分の好みを話したに過ぎない。もちろん生牡蠣が一番美味いと思う人はたくさんいるだろう。でもそれと比べてカキフライが不味いのかといえばそんなことはないはずだ。個人的な話をさせてもらえば、ニンニクと一緒にオリーブオイルで煮ても美味しいし、蒸し牡蠣にポン酢を垂らして食べるのも絶品である。それぞれに優劣などつけられない。

以前に聞いたことがあるが、カツオの一本釣り漁師は遠洋に漁に出ている間は三度の食事は全てカツオなのだという。釣れたカツオを食べるのだから困らないわけだ。でも毎日毎日カツオばかりを食べていると流石にカツオが好きな漁師でも刺身だけでは飽きてくるのだという。タタキにしたりなめろうにしたりハンバーグにしたりと料理番も工夫はするのだがやっぱり飽きてくる。

そんなある日のこと、揺れる船の上で食事をしていたらカツオの刺身の一切れが端から滑ってサラダの皿の中に入ってしまったらしい。サラダにはマヨネーズがかかっていたのでカツオの刺身もマヨネーズだらけである。しかしお腹の中に入ってしまえばみな一緒だとマヨまみれのカツオの刺身をそのまま口に入れた。すると今まで食べていた刺身とは一味違う食べ物になったらしい。それからというものカツオ漁師の間では「カツオにはマヨネーズ」と言われるようになったらしい。

しかしボクがカツオを食べる時にマヨネーズをかけることはない。ニンニクやミョウガ、大葉、ねぎなどを醤油にあえたものをカツオの刺身やタタキに乗せて食べる方が美味しいと思う。毎日のようにカツオを食べていない。カツオを飽きるほど食べていない。だからマヨネーズを付けてドロドロになったカツオは食べたくないのだ。でもこれもボクの好みだ。もっともボクはカツオの専門家でも何でもない。ただのシロートの好みだ。マヨネーズカツオの方が好きだという人もいるだろう。

”専門家”だという人が話していることを鵜呑みにしてしまう人は多い。イケメン俳優は確かにカッコイイが、だからといって彼らがすべてグルメとは限らないしスポーツ万能というわけでもない。それでも可愛い女優さんが「テレビはパナソニック!」などというものだからまんまと騙されてしまうダメなボクなのだ。

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