コンパクト

テクノロジー

日本人は小さなものが好きだ。その体格からして欧米人やアフリカ人に比べて小さいし住んでいる家も「ウサギ小屋」と揶揄されるほど小さい。ワンルームのアパートなどは外国の家のトイレに毛が生えたほどの広さしかないものもある。そのトイレはといえば水洗トイレの水タンクの上には大抵手を洗うための小さな蛇口がつけられていて全てがこじんまりとまとまっている。

戦国時代の茶人・千利休は数々の茶室を設計したという。そのいくつかを見たことがあるがそれはもう小さな空間に必要最低限のものだけが配置されたコンパクトの極致のような空間だ。勿論それは”ただ小さければいい”などというものではなく、虚飾や無駄を廃し本当に必要なもの大切なものを浮き上がらせるための思想が詰まっているのだという。

コンパクトが大好きな日本人はかつて昭和の時代に小型のトランジスタラジオを開発した。ソニーである。オープンリール(リールがむき出し)の携帯型テープレコーダー「デンスケ」を開発し究極のカセットテープレコーダー「ウォークマン」を世に出した。しかしその時に欧米の政治家は「日本人は背も小さいし家も小さいが作るものまでコンパクトだ」と言ってバカにしたという。

その頃のアメリカ人は大型のラジカセを肩に担いで大音響で横須賀の街を歩いて憚らなかった。日本人は「あんなに大きなものを持って邪魔じゃないのかねぇ」と蔑んでいたことをたぶん彼らは知らない。しかしやがて日本の軽自動車は低燃費と省スペース、優れたパワーや運転性能でアメ車の6000cc・巨大V8エンジンをモノともせずアメリカ本土やヨーロッパでもK-carとして人気を博していった。

日本人の美意識の中ではなんでもコンパクトなものが好きだしそれを作り上げる丁寧さと手先の器用さがあった。先に例に出したウォークマンはカセットテープの本体とほとんど変わらない大きさの中にモーターやキャプスタン、ローラーなどの動力部品、電気回路を作り込んだ挙句にステレオイヤホンからご機嫌なサウンドを流した。それを初めて目の当たりにしたアメリカ人もウォークマンを買い漁った。

その後、アップル社のiPodが登場するまではディスクマンなどで世界を圧巻し続けた。この時になってやっと”コンパクトの美学”に気づいたアメリカ人によって音楽プレーヤーやスマートフォンが開発されたが、この美学の元祖は日本人なのだ。今ではバカみたいに大きかった米・GMやフォードの車でさえカローラ並みの大きさの車をたくさん売っている。やっと世界が日本に追いついてきたのだ。

ところが一方で国産車はモデルチェンジするたびに車体は大きくなり場所をとるようになった。リッターカーの日産マーチもトヨタのAQUAもホンダ・ダイハツ・スズキなどの軽自動車さえもどんどんと巨大になっていく。こんなところでも日本人は美学を捨ててしまったのだろうか。

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