コミュニケーションが苦手な人に

コミニュケーション

「ブッシュ・ド・ノエルって何?」と訊かれて「ブッシュ・ド・ノエルはブッシュ・ド・ノエルだよ」と答える人がいる。ご存知の方も多いと思うがブッシュ・ド・ノエルは木の切り株の形を模したケーキの名前だ。ケーキに少しでも興味のある人なら知っているが、甘いものにまったく興味のない人は知らないかもしれない。かくいうボクもその名前を知ったのはホテルに勤めていた時だ。クリスマス前に勤めていたホテルのラウンジでケーキの予約が始まった時に初めて聞いたのだから大きな顔はできない。

案の定、身の回りにいたむさくるしい男友達に尋ねてみたら約半数はブッシュ・ド・ノエルの名前を知らなかった。逆に半数もの男が知っていたことに驚かされた。世の中は広い。自分が知らないことはまだまだたくさんある。というより知っていることなどほんの少しのことだ。

自分が知っていることを相手が知らないと小馬鹿にしたような口をきく人がいる。別にボクは気にしない方なので構わないのだが「そんなの常識だよ!」「そんなことも知らないのかよ」などと言うのは余計なお世話ではないかとさえ思っている。尋ねた人は自分が知らないから”恥を忍んで(笑)”訊いたのに、追い打ちをかけるように恥をかかされたのではちょっとかわいそうな気がする。

以前にもこのBLOGに書いたが、相手のことをバカにすることで自分の方が優れているということを示したいのだ。この習性は人間に限らず多くの動物が持っている原始的な習性なのだが、人間の場合は生存競争や自らの子孫繁栄に限らず、のべつ幕なしに態度に出してしまうところがちょっとイヤラシイ。

冒頭のブッシュ・ド・ノエルにしても「ケーキの名前だよ」と答えればとりあえず相手の疑問は軽くなる。もっと知りたければ「それはどんなケーキなの?」と訊いてくるだろう。会話は相手が何を知りたいのか、何をしたいのかを慮って相手の話を聞いていればことさら努力しなくても続いていくものだ。相手から第2の質問が返ってこなければ今度はこちらが知りたいと思っていることを訪ねてみればいい。「どこでブッシュ・ド・ノエルのことを聞いたの?」かもしれないし「何で急にブッシュ・ド・ノエルなの?」かもしれない。質問されたことで疑問に思ったことを素直に尋ねてみるのはごく自然なことだ。

他人と話をするのが苦手だという人がいる。何を話したらいいのかわからないから会話が続かないのだという。昔から初対面だったりよく知らない人との話題は天気から始めることが多い。いい天気ですね、暖かくなりましたね、あいにくの雨ですね、花粉症は大丈夫ですかなど、天気の話は誰とでも共通の話題になる。そこから話を始めれば連想が広がりやすくて話題に事欠かないからだ。

昭和の頃はビジネスシーンでプロ野球とゴルフの話題を出すのが常套手段だった。もっとも野球の場合は相手がどこのチームを贔屓にしているのか確認するまでは突っ込んだ話はしないように気をつけていた。残念なことにボクはプロ野球に興味がなかったので建前上「巨人ファン」だということにしていた。そのため巨人の1軍の選手の名前とポジションくらいは覚えていたし、前日の試合結果を新聞で確認することは怠らなかった。いろいろと面倒くさいようにも思えるがキャバレーや高級クラブのお姐さまの努力に比べればたやすいものだ。

バブルの頃にはちっとお高めなその手のお店にも連れて行ってもらったことがあるが、彼女たちの知識の広さには驚かされる。毎日、日経新聞をはじめとして三大紙はもちろんのこと、週刊詩やビジネス誌、スキャンダル雑誌にまでくまなく目を通して仕事に臨んでいた。だから大抵のお客と話を合わせて相手が興味を持っていそうな話題を繰り出してくるのである。それは当時まだ20代だったボクに対しても同じで、お姐さまたちの知識にとてもついていけない時にも「さすがにお詳しいのね」などとおだてることも忘れなかった。

相手が何を知りたいと思っているのか、何に興味を持っているのかを汲み取ることがコミュニケーションの基本だ。何を知りたいのか、何がしたいのか、それが分からないようでは相手の考えていることなどわかるわけがないし会話も続かない。話すのが苦手だと思っている人はまず相手の話をきちんと聞いて、時々自分の考えを相手に振ってみるだけでいい。会話は演説ではない。何を話していいのかわからなければ相手の話を真剣に聞くことが一番だと思う。講演会でも聴衆に質問を投げかけると急に場の雰囲気が積極的になることがある。

人は基本的に誰でも自分の話をするのが大好きだ。ムスッと黙ってばかりいる人でも、ピンポイントで自分の趣味の話題になったとたんに堰を切ったように話し始めることがある。話を聞いてくれる人がいるのなら誰もが饒舌になる。それが会話が苦手ではなくなる極意なんじゃないかと思っている。

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